第17話 彼女との関係

「えええい!」


 ドラゴンソルジャーが俺の目の前で、着物姿の若い女と戦っていた。

 俺の拙い妖怪知識だと、多分肉吸いだと思うんだよね。


 山に出る妖怪で、旅人の身体に触れてその肉を吸い取ってしまうという、恐ろしい人喰い妖怪。


 コイツとは剣で戦う俺よりも、槍で距離が取れるドラゴンソルジャーの方が安全に戦えるし。

 相手の攻撃方法が「身体に触れる」しかないので、彼女の練習台としてもちょうどいい。


「ドラゴンソルジャー、もっと動きはコンパクトに。そして一撃目は避けられるのを前提で考えるんだ」


「分かってるよ!」


 俺の指導で、彼女の動きはだいぶ良くなってきた。

 無駄な動きが減ってきたし、連鎖攻撃チェーンコンボみたいな連続攻撃を組めるようになってきた。

 最初は「先輩だからって偉そうにしないでよ!」ってキレられるかもと思ったんだけど。


 彼女、素直に俺の言うことを聞いてくれるんだ。

 教える側としてはまあ、悪い気はしないよね。


 なのでまあ、ヒーローの先輩として彼女に俺は戦い方を教えてる。

 ……ちょっと偉そうかも、と内心思うんだけどさ。


 彼女が強くなることは、俺の利益にもなるわけだし。

 別にいいよね。


 これはヒーローとしては至極真っ当なことのはずだし。


 俺は変身しないで後方から見守って、彼女の戦いに口を出し。

 彼女が変身時間2分経過するまで生身で控えていた。


 ……こうすると、合計で5分間、こっちに戦闘力がある状態が維持できる。

 急な増援にも安心だ。


 ……2分で変身するのか?

 3分まで待たないの?


 そう、思うかもだけど。

 それは……


「あ、先輩。そろそろ2分過ぎるからごめんなさい!」


 そう一言言い


 俺が彼女のその言葉に応じて変身すると。


「あとよろしく!」


 そのまま。

 彼女は妖怪を放置してどっかに飛んで去って行ってしまった。


 ……彼女さ。

 自分の仮面の下の素顔を俺に見せようとはしないんだよな。

 だから2分過ぎると帰っちゃう。


 まぁ、女の子に


 ねぇ、キミの顔見せてよ。


 なんて。

 ちょっとスケベかキサマ!?

 ……そう言われてもしょうがない気がするので。


 俺はそれを受け入れていた。


 しょうがないしょうがない。


 俺は剣を構え。


 ヒャアアアア!


 狂人のような奇声をあげて襲い掛かって来る肉吸いの手を


 こっちに伸ばして来る前に切断し。

 返す刀で袈裟斬りで胴体を斜めに斬り捨てた。


 俺に切り裂かれた肉吸いは、瞬く間に塵になって消滅していく。


 ……戦闘終了!




 まぁ、そんな感じで。

 俺の「2人になったヒーロー活動」は順調に進んでると言えた。


 ドラゴンソルジャーが十分戦えるヒーローになるのは期待できるし。

 ひょっとしたら、この先仲間がさらに現れて、もっと楽になるかもしれない。


 あとさ。

 ……彼女が現れたときに感じたモヤモヤ。

 それが何だったのか、彼女との交流の中でなんとなく分かって来た。


 俺はさ……

 きっと、俺だけがヒーローであることに拘りがあったんだよ。

 だからモヤモヤがあったんだと思うんだ。


 だから同じような存在が出現したことを手放しでただ喜べなかった。


 小さい子供じゃあるまいに。

 情けないよ。

 目的を履き違えるなんて。


 大事なのは妖怪から人を守ることであって、この世で俺だけが妖怪から人を守ることが出来るということじゃないのにな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る