第14話 何で知ってんの?

 俺の変身が解けた。

 再変身は3時間後。


 俺から妖怪と戦うための力が失われた。

 ……どうする?


「桜田君!」


 ドラゴンソルジャーが俺の変身が解けたのを目にして、焦った声をあげた。


 えっ……?


「何で俺の名前知ってんの?」


 いや、驚くだろ。

 何で知ってんの? と。


 俺はドラゴンソルジャーに本名を名乗ってないし。


 俺の戸惑いと驚きの籠った声に、ドラゴンソルジャーは


 しまった!


 という様子を見せ


「知ってたから!」


 勢いで誤魔化すように、そんな返答。

 まあ、今はそれどころじゃない。


 俺は戦う力を失った。

 その状態で、俺が手を焼く馬頭鬼メズキの相手を、彼女に任せなきゃならないんだ。

 もっと言うと、任せて、必ず勝ってもらわないといけない。


 ……これはちょっと難しい問題だぞ……。


「やあああ!」


 穂先に体重を乗せて突き刺す感じで、槍を突き出すドラゴンソルジャー。

 槍術なんて学んでないけど、ドラゴンソルジャーの戦い方がダメなのは理解できる。


 案の定、馬頭鬼の胸を狙ったそれはあっさり避けられて、空を切る。


 俺は


「だからがむしゃらに突いても避けられるだけなんだ! 気合を入れる前に相手の隙を」


「そんなの分からないよ! 私は桜田君みたいに剣道とか空手とかやってないんだから!」


 ……なんか逆切れされた。

 つーか……


 俺が剣道経験者だってことまで知ってんのかよ……


 誰なんだ一体……


 声の感じでは分からないんだよな。

 自分の声って、自分では分からないものだからか、変身後の俺の声が変化していたかどうかはちょっと分からんのだけど……


 とにかく、声で誰なのか分からなかった。


 そのとき


 ヒヒ―ン!


「あっ!」


 ドラゴンソルジャーの手から、青龍刀で長槍が払われて吹っ飛ばされる。

 武器落とし。


 俺の正論ハラスメントに逆切れなんかしてるからこうなるんだ!


 武器が無くなり素手になってしまうドラゴンソルジャー。

 まずい!


 俺が吹っ飛ばされた長槍を拾いに行こうとすると


「まだまだ!」


 ドラゴンソルジャーは、新しい槍を手の中に出現させる。


 ……俺、武器を奪われたこと無かったから知らんかったけど。

 武器は無限に創れるんだな。


 新しい発見だわ。

 なるほど。


 つーか、こういう情報、必要に迫られないと出て来ないの何なんだ?

 遊ばれてるのかな……?


 ヒーローブレスを創った誰かに。


 そんなことを考えて俺は


 さっき彼女が落とした槍を拾いつつ、ドラゴンソルジャーの戦いを見守る。


 ドラゴンソルジャーは俺の言葉をちゃんと聞いていたらしく。

 素人なりに、フェイントを入れようとか、普通と違う槍の使い方……例えば、柄の方を棒として使って打ち据えるとか。

 そういうことをやり始める。


 でも、なかなか上手く行かない。

 さすがに馬頭鬼は強い……


 ブヒヒーン!


 激しく嘶きながら、馬頭鬼が青龍刀を振り下ろして来る。

 ドラゴンソルジャーを唐竹割りにする勢いで。


 実際、まともに喰らえばそうなりそうだ。


 ……それに俺は


 飛び出した!


 そして馬頭鬼と彼女の間に割り込んで、手に持つ槍でその一撃を受け流す。


 時間切れで変身は出来なくなってるけど。

 俺が変身ヒーローとして積んで来た経験はまだ残ってる。

 妖怪相手に俺は実践的な剣術を身に着けたんだ。


 だから……

 馬頭鬼の渾身の一撃を、斜めに構えた槍の柄で、俺は受け流せたんだ。


 大きく崩れる馬頭鬼の体勢。


「今だ!」


 俺の叫びに。

 ドラゴンソルジャーは応えてくれた。


「サンダートラストォォ!」


 全力の叫びと同時に。

 ドラゴンソルジャーが全力で槍を突き出した。


 雷を伴った長槍を。


 帯電した槍の穂先は馬頭鬼の首に深々と突き刺さり、突き抜ける。


 その瞬間、馬頭鬼は大きく痙攣し。

 粒子になって、木っ端微塵になったんだ。

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