第5話 ごめんなさい

 そのまま今日の授業が終わり。

 放課後になった。


 俺は今は帰宅部なんだよな。

 暴力事件を起こして、部活に居るのが迷惑かけることになると思ったから、自発的に辞めたんだ。

 それまでは剣道部に居たんだけどさ。


 事件を起こすまではそれなりに楽しくやってたよ。

 先輩にやたら古流剣術に詳しい人いて、面白かったし。


 まあ、もうどうしようもないことだから気にはしてないけど。


 そして帰る準備を整えていたら


「桜田君、市民図書館に行きませんかァ?」


 先に帰る準備を整えた高瀬に、そう誘われる。

 ……暴力事件を起こした後、俺から一気に人が離れて行ったけど。

 代わりに高瀬が俺と交流を持とうとしてくるんだよな。

 こんな感じで。


 今ある絆を大切にしようとしてるのかな?


 高瀬が感銘受けたとか言って、早口で語ってた作品の中で、確かそんな言葉があったんだよ。

 良い言葉だと思うんだけどさ……


 強迫観念持ってやるようなことでも無いと思うんだけどな。

 恋人でも無いのに、こうも頻繁に2人で遊ぶのってどうなんだ……?


 高瀬の人生の枷になったりするんでは……?

 ちょっと引っかかったんだが、俺にはどうも判断がつかなかった。


 そして高瀬自身が、俺と遊びたいって言ってるんだし。

 だったら、別にいいよな。


 人間は、自分の選択に責任を持たないといけないんだ。


 だから


「……良いよ。ただ、5時くらいまでな」


 あまり遅くなって、高瀬が帰り道に悪い奴に襲われたら事だしな。

 そんなことになったら、俺は責任取れないし。


 そして席を立とうとしたとき。


「桜田君!」


 ……もう1人が、俺に話し掛けて来た。


 それは笹谷だった。




 笹谷が俺に話し掛けて来た。

 何か、思いつめた表情で。


 えっと……?


 何でそんな表情をしているのか、俺は分からなかった。

 俺と笹谷は面識があるだけで、友達でも何でもなかったんだ。

 これまで、ずっとだ。


 だから本当に何も心当たりが無かったんだよ。

 けれど


「ごめんなさい!」


 ……いきなり、頭を下げて謝られたんだよね。




 俺は慌てた。

 周りを見回した。


 こんなの、他人に見られると流石に困る。

 いくらもう、すでに孤立してるとしても、それはつまりここでの評判はもうどうでも良いって意味じゃ無いんだ。


 幸い、この教室にいるのはすでに


 俺、高瀬、笹谷


 この3名だけになってて。

 高瀬以外には誰にも見られていなかった。


 ……今日に限って、ヒトがけるのが早いな。

 まぁ、そのせいで助かったんだけどさ。


 俺は自分が想定する中で最悪であると思った状況でないことを確認後


「……えっと、何が?」


 そう訊ねたんだ。

 すると


 笹谷は一瞬辛そうな顔を深めて


「……私は……桜田君が一番苦しいときに何もしなかった」


 謝罪したんだ。


 俺がイジメの標的になって、数々の嫌がらせを受けていたとき。

 自分が助けに入らなかったことを。


「あのひとたちが、ニヤニヤしながら桜田君の持ち物を盗んでゴミ箱に入れているのを、私は止めなかった」


 自分が標的になるのが怖かったから。

 そういうことを、言外に言っている。


「だから、ごめんなさい! 謝っても許してもらえると思ってないけど!」


 言ってる笹谷の顔色は、青くなっていた。

 笹谷自身、自分の謝罪を受け入れて貰えるなんて想像して無いんだろうな。


 ……俺は


「高瀬、ちょっといい?」


 その謝罪に対して答えずに


「なんですか?」


 俺の言葉に、笹谷の突然謝罪で同じように停止していた高瀬が再起動。


 俺は


「……笹谷も一緒で良いかな?」


 気にしてないとか、許すよとか。

 何か言い辛かったんで。


 そういう言い方をした。


 俺の言葉に笹谷は「信じられない」という顔をしてて。


「いいっすヨォ~」


 高瀬は別に嫌な顔をしないで。

 俺の提案を許可してくれた。

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