第4話 腐れ縁

 昼休み。


 俺は学校の屋上に出て来ていた。

 あの教室で食事をするのは息が詰まるんだよ。


 俺以外にも何人か、昼休みを屋上で過ごしている人間はいるけど、大体が誰かと一緒で。

 1人で食べてるのは俺のみだ。


 弁当は母さんが朝に作ってくれたもので。

 自分で作ったもんじゃない。

 まあこれは、あのことが起きる前からそうだったんだけどさ。


(オマエのくだらねえ昼飯、ゴミ箱に捨てておいてやったぜ。感謝しろよ)


 ……ふと、俺がブチ切れた切っ掛けになった出来事を思い出して、嫌な気分になった。

 あのときは「母さんは俺のことは本当は大事じゃない」なんて、拗ねていたけど。

 あの件で反射的に手が出たあたり、弁当だけは作って貰えていたことが、自分の最後の砦的なものになってたんだな。

 気づいてなかったけど。ホント、餓鬼だな。




 コンクリの地べたに座って弁当箱を開けると、白飯に茹で野菜、焼いたハム、卵焼き。

 それにふりかけが1つつく。


 早速食べ始める。


 美味いな……

 腹、減ってるし。


 それにまあ、心穏やかだから。


 教室ではこうはいかないよ。


 高瀬は別に嫌いでは無いけど、彼女でもない女子と顔を突き合わせて食事はなんか違うし。

 男子は俺と関わろうとしないしさ。


 あそこでは無理。

 そう、もごもごしながら俺が弁当を食べていると。


 校舎のドアが開いて。

 この屋上に、人が入って来た。


 視線を向けると


 それはクラスメイトの女子の、笹谷ささたに理恵りえだった。




 彼女は俺が小学校からの知り合いで。

 一緒に遊んだことは無いが、互いに名前は知ってる間柄。


 髪型はショートヘアで、やや茶色。

 陸上選手だからか、痩せ型の体型の女子だ。

 髪型も多分そのせいだろうな。長いと走るとき邪魔だろうし。


 顔は元気良い感じで、女だけでなく男友達も多そうな雰囲気だ。

 実際多いのかどうか知らないけど、男子ともよく話しているのは目にする。


 中学のとき、笹谷が好きだとか言ってる奴が数人居たと記憶している。

 まぁ、見た目悪く無いし、性格も悪いとは思えないから、多分モテるんだろうな。



 ……で、何で屋上に出て来たんだ?



 疑問に思っていたら、彼女は。


 俺から少し離れたところに無言で腰を下ろし。

 俺同様、弁当を広げ始めた。


 俺の半分くらいの大きさの弁当箱を。


 ……他人が食事するのを凝視するの、マナー違反よな。

 同じことをされたら、俺は気分悪い。


 なので俺は彼女を見るのを止めて、自分の食事を再開した。


 そこから10分くらい後。


 昼食を終えた俺は、教室に戻るべく立ち上がる。

 食事が終われば用事無いし。


 笹谷はまだ食べている。


 そしてそのまま、俺が身体を払って立ち去ろうとしたとき。

 その背中に


「桜田君」


 ……笹谷が、声を掛けて来た。




 何? 何の用?


 心当たりが無かったんだけど、名前を呼ばれたんだから


「……何?」


 振り返り、訊ねる。

 その意図を。


 笹谷は何か言いたそうな顔をしてて。

 なかなか言葉が出て来ないから、無視して戻ろうとしたら。


「……高瀬さんと付き合ってるんだね?」


 そんなことを言われたので


「いや、別にただの友達だけど?」


 そう返して、俺はさっさと立ち去った。

 ……ハタから見るとそう見えるのかな?


 まぁ、別にどうでもいいんだけどさ。

 今更、この町で。


 別にずっと居るわけでもないしな。

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