第3話 オタク少女

 朝5時になった。


 俺は目覚ましが鳴る前に起床し、ベッドを出て階下のリビングに降りる。


「母さん、おはよう」


「おはよう」


 中では母さんが2人分の弁当を作っていた。

 自分の分と、俺の分だ。


 母さんが家を出るのが7時きっかり。

 2時間しか無い。


 俺も遊んでいるわけにもいかないので、母さんが弁当を作ってる横で、朝ご飯の用意をする。

 我が家の朝食のおかずは、弁当用の料理の残りと味噌汁だ。


 そして味噌汁の方は俺が作るんだよね。




 そんな感じでバタバタと朝の仕事を終えて、準備して家を出て。

 そのまま俺は始業時間よりかなり早く、通っている高校に辿り着く。


 聖心高校。


 公立高校だ。

 俺はそこの2年生。


 学校のレベルはそこそこ。

 トップレベルじゃないけど、底辺でもない。

 中堅の高校だ。


 校風は……

 まあ、平等なんじゃ無いかな。


 暴力事件を起こした俺を、クビにしないで置いてくれてる学校なんだし。




 教室に行くと。

 ほぼ、誰も居なかった。


 ……小柄な女子以外は。


「高瀬、おはよう」


「桜田君、おはようございますですー」


 彼女の名前は高瀬智子たかせともこ

 クラスメイトで、性別は女子。


 ……当たり前?

 智子だろ……?


 いやまあ、うーん……。


 俺が指摘したら、髪の毛を整えたりするようにはなったんだけど、昔のイメージが強すぎてねぇ。

 彼女は今でこそ、黒髪ロングのやや陰気な雰囲気の普通女子に見えるようにはなってるんだけど。

 昔は寝癖そのままで学校に来るような、外見を全く触らない子だったんだよな。


 いくらなんでも人としてやばいだろと思ったんで。

 彼女と友達になったときに、彼女のために指摘した。


 母さんが「見た目を気にしないのは、会う人をどうでもいいと思ってる証拠よ」って言ってたからな。


 で、今は髪だけはキチンとしてくれてる。

 彼女としても、俺との友人関係はその労力に見合う価値があるって思ってくれてるってことだから。

 まあそこは普通に嬉しい。


「昨日のカープはもうチェックしましたですかー?」


 俺が彼女の2つ前の席に座ると、高瀬が俺に昨日のテレビ番組について訊いて来た。

 高瀬はアニメオタクなので、会話の中心がそれになりがち。

 俺は別にアニメファンでは無いんだけど、ちゃんと聞けば分からなくはないから付き合ってる。


 高瀬には恩があるからね。

 その辺に触れたら気を悪くするに決まってるから言わないけどさ。


 高瀬のお陰で、俺は母さんへの不信感を払拭できたんだよ。


「一応見たよ。ネット配信で」


 高瀬の質問に、正直に返す。

 現在放送中のマスクドファイターカープってのが、脚本が重くて面白いんだっていうから。

 じゃあ次回分を見るよ、って約束したんだよな。


 高瀬はその感想を聞きたいらしい。

 俺は


「主人公が、ライバルが異父兄弟ってことに気づいて吐き気を覚えるシーン、子供向け番組でやっていいのかと思った」


 正直に感じたままに感想を言うと


「ですよねェ~!」


 高瀬はニンマリご満悦。

 そして怒涛の補足説明。


「あのライバルのシャドーファイターゴルドは、登場時から伏線を張りまくられてて、もしや、って思っててェ」


 メッチャ嬉しそうに語る。

 他人が喜ぶのは気分がいいよ。


 そして 


 その後、時間が進んで。

 ボツボツ他のクラスメイトが登校して来たけど。

 誰も俺に「おはよう」とは言わなかった。


 まぁ、しょうがないんだけどな。


 俺はこの町の名士の家に、恨まれているし。

 とばっちりは受けたくないだろ。

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