第15話「新人魔現師の戦い 6」

「では、始め!!」




この優愛の合図で、小人族の門倉希望&人族の桃園芽瑠vs未良の模擬戦が始まり、未良は後ろに跳び、門倉はそれを追いかけ、桃園はその場から動かない。




「よっしゃ、やるぞ〜!」



「笑、元気な子だね。でも、君達の相手は私じゃなくて……」




走ってくる門倉と、手をモジモジさせている桃園を見ながら、未良は手を左右に伸ばし、黒い煙を発生させる。




「来て!"メロス"!"ガロス"!」




その声で、黒い煙の中から、2体の半牛半人の魔物が現れた。




「ブモォォォ!!!」



「ブォォオオン!!」




地面に降り立った、青色の体に金色の紋様が入っている、ミノタウロスの上位存在…メガタウロスのメロスとガロスが、叫び声を上げながら、それぞれが持つ片手斧を構える。




「メロスは、左の小さい子を、ガロスは右の子を相手して!」



「ブモォ!」



「うわ、おっきい……」




未良を追いかけていた門倉は、突然目の前に来た、右角が短いメロスを見上げながら、そう呟く。


メロスとガロスの身長は少なくとも3m以上はあるため、小人族で身長が1.3m程しかない門倉が隣に並ぶと、門倉は小さな人形にしか見えない。




「ブモ笑」




そんな門倉を見て、メロスは笑う。




「なっ……今、バカにしたな!許さないぞ〜!」



「ブモオォ!」




と、向かい合う2人に対して、桃園と左角が短いガロスの方は…




「…」



「ちょ、ちょっと待ってくださいね!落ち着きますから!…すぅ…はぁ……すぅ…はぁ……」




桃園が緊張を和らげるのを、ガロスが黙って待つという不思議な空間が生まれていた。




「笑、2人とも面白いな〜メロスとガロス相手に、どう戦うんだろう。楽しみだ。」




未良は、2体と2人が向かい合う中央から少し離れ、戦いの行く末をゆっくり見守る。



そして、観客席にいる面々も…




「うわぁ…メロスとガロスを出したか。ちゃんと手加減はさせるだろうけど、ほんと未良も良い性格してる笑」




刀花が苦笑いしながら言う。




「多分、門倉ちゃんと桃園ちゃんが持ってる武器を見て、前衛だと思ったんだろうね。だから、それに合わせて肉弾戦が得意な、あの2体を呼び出したんじゃないかな。」



「にしても、新人の子達相手に、A級のメガタウロスはね笑」



「確かに、やり過ぎ感はあるよ。でも…」



「あの2人の天能なら、どうにかなるかも。身体強化がどのレベルでできるかにもよるけど。」



「あ、そっか。連火と優愛はみんなの天能を知ってるんだ。」



「そりゃそうでしょ。知らないと、全体の教育係なんて務まらないよ。」



「笑、だね。って、連火がそこまで期待するとは……2人の力を見るのが楽しみだな〜」




未良と同じように、これから始まるであろう戦いに興味津々の刀花、千躰、優愛。


その後ろで、同じく模擬戦に興味津々ではあるものの、勇輝は右隣に座る森人族の氷室麗生の話に意識を向けていた。




「まずはね、ここバーニアタムは、皇帝国に存在する2つのS級クランの1つであり、世界的に見ても最強に近いクランなんだよ!」



「S級クラン?」



「S級クランというのは、"クラン協会"によってS級と認定されたクランのことで、その階級は上から順にS、A、B、Cとあり、クランの階級によって出せる依頼が異なる。正確に言えば、依頼者は依頼の階級によって、その依頼を出せるクランが変わるの。例えば、A級の依頼なら、A級以上のクランにしか依頼を出せない。」



「クラン協会……」



「クラン協会は、各国に存在するクランの情報を集めて、世間にその情報を広め、場合によっては仕事を斡旋することもある、規模と影響力が大きい組織。もし依頼者がクランではなく、クラン協会に依頼を出せば、クラン協会がその依頼の階級を定め、適したクランに依頼を斡旋する。まぁ、この場合、依頼料の一部をクラン協会に取られるんだけど。」



「階級…」



「階級は、クランと依頼、魔物に定められる基準で、クランならその規模と戦力、依頼は達成難易度、魔物は強さによって変わる。あと魔物だけは特S級や特A級、特B級という階級もある。」



「なるほど…」




氷室の説明を聞き、勇輝はどんどん情報を蓄え、整理していく。


そんな勇輝を見て、氷室は満足気な表情をし、左隣に座る人族の茅野翠月はニコニコの笑顔になっていた。




「笑、さすがオタクな氷室ちゃん。勇輝君の質問に即座に正確に答えるじゃん。」



「っ…オタクはまぁ事実、バーニアタムのことが好きで好きでたまらないから、否定しないけど…いや、否定すること自体が失礼に当たるので、そんなことするはずもない!……でも、そのバカにしてる感じが、少し気に障る。」



「あ、そう?ならごめん。そんなつもりではないんだけど。」



「そっか。なら、茅野ちゃんはそういう人だと捉えておくよ。」



「笑、ありがと。」



「それで、勇輝君。クラン協会は、他にも階級というか称号を作ってて…」



「魔現師個人に対して、"天魔現師"っていう称号を付けてるんだ!」



「なっ…」




氷室が言おうとしたであろうセリフを、横から翠月が掻っ攫う。




「茅野ちゃん!それは私が教えようとしてたことだよ!」



「へへへ笑。別に良いじゃん。どっちが教えたところで、内容は変わらないし。いや、氷室ちゃんよりも美人な私に教えられた方が、勇輝君の記憶に残りやすいかな〜」



「はぁ?!そ、それは、わ、分からないでしょ!」



「笑、じゃあ、勇輝君。私と氷室ちゃん、どっちが美人だと思う?」



「え、えぇ…」




翠月の至近距離上目遣い攻撃に、勇輝は固まる。



まぁ、無理もない。


なぜなら勇輝は、平和居村にいた時に、同じ歳ぐらいの女性と接することが、全くなかったからだ。



しかも、15歳という多感な時期。


勇輝にとって、翠月の軽いスキンシップでもかなり刺激が強いのだ。



もちろん、行動を共にしている、翠月と同じぐらいに美人の未良や刀花と、近い距離で会話することもあったのだが、勇輝にとってその2人は姉的存在であるため、そういう感情は湧かなかった。



よって、隣から香る良き匂いと、視界に広がる造形美、魂を吸い込まれそうな大きな瞳から感じる力により、頭がバグりそうになりつつも、勇輝は何とか話を逸らす。




「あ、あの、先に茅野さんの話の続きを聞かせてもらえませんか?!」



「笑、照れちゃって、か〜わい!」



「ふぅ……茅野ちゃん。勇輝君を困らせないの。代わりに私が答えちゃうよ。」



「あ、待って待って。私が!説明するから笑」



「くっ…」




勝ち誇ったような表情をしながら、翠月は勇輝に説明を再開する。




「まず、クラン協会は、依頼者の方々がどのクランに依頼を出すか選ぶ時に役に立つようにって、定期的に各クランに所属する代表的な魔現師を紹介してるのね。」



「あぁ、だから刀花さんのことを知ってたんだ。」



「いや、魔現師を目指してる人なら、みんな知ってるよ、普通は。それと、下手なことを口走ると、お隣さんが鬼になるよ。」



「え?」



「知らないにもほどがあるでしょ……」




隣を見ると、氷室が俯いて低い声でそう呟いていた。




「おぉう……」



「笑、で、その中で世界的に見てもトップクラスに優秀な魔現師に対して、天魔現師っていう称号を付けて呼んでるの。」



「天魔現師か……かっこいいな〜」



「だよね!かっこいいよね!!天魔現師様達は!」



「っ!う、うん…」




突然、隣で氷室に叫ばれて驚きつつも頷く。




「そして、そのかっこよくて尊敬しかない天魔現師様のうちの1人が!今、目の前で戦っている調停者…伊従未良様なの!!凄くない?!!」



「え?!未良さんが、天魔現師?!」




熱狂的なファンの顔の中に、どこか誇らしげな雰囲気も感じる氷室の言葉に、勇輝はさらに驚き、舞台上の未良を見る。




「なんか新鮮だわ、その反応。私の周りじゃ、常識だったから笑」



「うんうん。もうほんと、どれだけの田舎出身なのよ、勇輝君は。」



「まぁでも確かに、ドラさんやあんな強そうな魔物を仲間にしてるんだからそりゃそうか……って、氷室さんも茅野さんも、未良さんのことを調停者様って呼んだり、刀花さんのことを剣神様って呼んでますけど、それって…」



「それは…」



「いわゆる異名のことだよ。ニヤッ」



「グヌヌ…」




またしても翠月にセリフを横取りされて、悔しそうな表情をする氷室。




「その異名も、クラン協会が?」



「う〜ん、異名は、クラン協会が付けてるわけじゃないかな。クラン協会の魔現師紹介が、その元になってることはよくあるけど。」



「た、例えば!伊従未良様の調停者も、宮磨刀花様の剣神も、クラン協会が紹介しているお2人の天能の名前!」



「え、あ、そうなんですか?」



「うん!」



「未良さんの天能は『調停者』で刀花さんは『剣神』っていうんだ……」



「あと、優愛さんは守護者や、バーニアタムの盾って呼ばれてて、千躰さんは打ち師って呼ばれてるよ。」



「へぇ〜」




と、勇輝が魔現師やバーニアタムについての、ある程度の常識を理解したところで…




「よし!!調停者様の偉大さを理解したところで、模擬戦を目に焼き付けよう!」



「分かりました。」



「笑、ずっとそのテンションを保てるの凄いな〜」




3人は、未良達の模擬戦を見るのに集中し始めるのだった。





to be continued

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