第14話「新人魔現師の戦い 5」

こちらに来てと言われた未良と刀花は、勇輝を連れて、優愛と千躰、あと、まだ模擬戦をやっていない新人魔現師4人がいる舞台の中央に来た。




「なに?優愛。」



「まだ模擬戦の途中でしょ?」




ニコニコしている優愛に、未良と刀花が尋ねる。




「いや〜そうなんだけどさ、せっかく2人がいることだし、って思って笑」



「ん?」



「優愛。予定より時間が押しちゃってるんだから、ニヤニヤしてないで、早く本題を話しなよ。」




隣に立つ千躰が真顔で言う。




「はーい。2人に、この子達の模擬戦の相手をしてもらえないかな、って思ってね!」




その優愛の言葉に、未良と刀花も、おそらく事情を聞かされていなかったであろう新人魔現師4人も、そして勇輝も驚く。




「え?マジで?」




未良が主に千躰の方を見ながら聞く。




「うん。もうある程度、力のネタバレをしてしまった私達が相手をするよりも、未良と刀花が相手になった方が、実力を見れると思うから。」



「ちなみに、さっき、連火と私が交代した理由もそれね。」



「それは分かってたけど……」



「頼まれてくれないかな?」




優愛が上目遣いで、2人に頼む。




「……勇輝は、私達の戦いを見たい?」



「え?!」




突然、未良に自分の名前を呼ばれて驚く勇輝だったが、みんなに囲まれて緊張しながらも、何とか返事をする。




「み、見たいです!」



「そっか笑。ならやるよ。」




勇輝の気持ちを聞き、未良は優愛の頼み事を受けた。




「じゃあ、私も。」




続いて、刀花も笑顔で了承した。




「やったね!ありがとう2人とも!あと、勇輝君?も。」



「あ、いえ…」



「ねぇ、ずっと気になってたんだけどさ。その子は何なの?」




とうとう、模擬戦を始めた時から心の隅に留まっていた疑問を、千躰はぶつけた。




「今日からバーニアタムの魔現師研究生になった子だよ。名前は阿閉勇輝。ま、他の詳しいことは後から話すから。」





と、未良は手短に千躰の疑問に答える。


それに対して千躰も…




「あっそ。」




と、簡単に返事を済ませ、残りの疑問は、その後からの話の時に聞こうと考えた。




「よし、2人の協力も取り付けたところで、模擬戦を始めようか。」




ウキウキの笑顔の優愛は、未良と刀花が模擬戦の相手をするということに、それぞれの反応を示している新人魔現師4人の方を振り返りながら、そう言う。


すると…




「は〜い!」




まずは、大きな巨槌を背負った小さな少女…小人族の"門倉希望かどくら のぞみ"が、元気に返事をする。




「は、はい…」




次に、大剣を背負い、足が少し震えるぐらいにガチガチに緊張している人族の"桃園芽瑠ももぞの める"が何とか返事をする。




「OKです!」




それとほぼ同時に、剣を腰に差した人族の"茅野翠月かやの しづき"が、指でOKポーズを作りながら、明るく返事をする。




「ウソ、アノチョウテイシャサマトケンシンサマガ、ワタシタチノアイテヲシテクダサルナンテヤバイヤバイ……あ、はい!」




最後に、何を言っているか聞き取れないような音量と速度で話していた、2本の剣を腰に差す、耳が長く尖っている森人族の"氷室麗生ひむろ れい"が慌てて返事をした。




「じゃあ、まず、門倉希望ちゃんと桃園芽瑠ちゃんね。相手は……2人は未良と刀花、どっちが良いとかある?笑」



「う〜ん、どっちでも良いんだけどな〜」




顎に手を当てながら、悩む素振りをしつつ適当に答える門倉。




「桃園芽瑠ちゃん…いや、桃園ちゃんはどっちが良い?」




その上、桃園に全任せした。




「え、えぇ……」




桃園も桃園で、極度の緊張状態でキョドるばかりで、答えを出せない。




「笑、なら氷室麗生ちゃんと茅野翠月ちゃんに決めてもらおうか。2人の相手をしない方と戦うことになるんだし。」




その様子を見かねた優愛は、氷室と翠月の方に聞く。




「私達ですか?う〜ん、氷室ちゃんはどうしたい?」



「え…ソリャモチロン、オアイテシテイタダケルノナラバ、ドチラデモホントアリガタインデスガ、アイショウテキニイエバ、ケンシンサマノホウニオアイテシテイタダキタイ、シカシ、チョウテイシャサマトモタタカッテミタイトイウキモチガアリマシテ…」



「あはは笑、やっぱオタクちゃんなのかな?」




と、氷室は先程と同じような高速独り言モードに入り、翠月はそれを見て笑う。




「…あれ、もしかして、この4人ってそれぞれで癖強い?」



「みたいだね。」




戸惑う優愛に、千躰が肯定する。




「なら、じゃんけんで決めちゃおうか。」




刀花がそう提案し、未良も頷いて賛成したことで、じゃんけんが始まり、その結果…




「じゃ、門倉ちゃんと桃園ちゃん、あと未良以外の人は観客席に移動しよう。」



「2人とも、よろしくね。」



「よろしく!!」



「よ、よろしく、お、お願いします!」




桃園と門倉の2人は、未良が相手をすることになった。




「いや〜剣神様と戦えるなんて、光栄です!」




観客席に移動する中で、翠月が刀花にそう言う。




「そう?笑」



「はい!ほんと嬉しいです!」



「笑、なんかそこまで喜んでくれると、こっちも嬉しくなるな〜」



「刀花、ニヤニヤし過ぎ笑」



「ほんとそれ笑」




優愛と千躰は笑顔で、翠月の言葉にニヤつく刀花をイジる。



そんな様子を後ろから見ていた勇輝は…




「剣神様って、刀花さんのことなのかな?」




と、疑問を呟き、その声が少し前にいた氷室の耳に入る。


すると…




「え、君。剣神様のことを知らないわけないよね?!!」




突然後ろを振り返り、目を見開いて勇輝に聞く。




「あ、いや、その……はい…」



「ぬぁんだってぇぇ?!!!」




氷室の驚いた声が、演習場に響く。




「この世界に存在しているのに…ましてやこのバーニアタムの敷地内にいるのに、剣神様のことを知らないなんてどういうことなの?!!」



「笑、氷室ちゃん、声大き過ぎ。」



「あんまり、剣神様、剣神様って言わないでよ笑。ちょっと恥ずかしいんだから。」



「いや、世間一般的にそう呼ばれてるんだから、しょうがないでしょ笑」



「うんうん!」



「そうだけどさ……あの、氷室麗生ちゃん?勇輝は、ものすごい田舎の出身で、ここに来るまで魔現師を一度も見たことがないってレベルの人なの。だから、勘弁してあげてくれないかな?」




荒ぶる氷室に、刀花がそう言う。




「はわわわわ、もちろんでございます!剣神様!ごめんね、勇輝君?大きな声を出しちゃって。」



「い、いえ………あの、氷室さんは、バーニアタムのことや、その魔現師のことをよく知っていらっしゃるんですよね?」



「う〜ん、まぁ、一般常識程度なら…」



「笑、オタクなんだからそれ以上でしょ。」



「うるさいよ!茅野ちゃん。で、何?」



「その、さっきの刀花さんのこととか、他のバーニアタムに所属している魔現師さんのこと、バーニアタムそのものについて、教えてもらえないかな〜と思いまして…」




恐る恐ると言った感じで、勇輝は氷室にお願いする。


それを聞いた氷室は…




「っ!任せなさい!この氷室麗生に!!」




小さな子供に見える勇輝からお願いをされ、まるで姉のような気持ちになり、しかもそのお願いの内容が、自分のオタク知識を存分に生かせる得意分野であったため、意気揚々と承諾した。




「やった!お願いします、氷室さん!」



「良かったね、勇輝。未良達の模擬戦を見ながら、氷室ちゃんにたくさん教えてもらいな。」



「はい!」



「さぁ〜て、何から教えようかな〜」



「え〜氷室ちゃん、良いな〜〜ねぇ、勇輝君。お姉さんからも色んなこと聞きたくない?」




張り切る氷室を見て、羨ましくなった翠月も、勇輝を軽く誘惑するような形で聞く。




「あ、えっと、はい、お願いします。」



「いぇ〜い、よろしくね!勇輝君!」




という感じで、盛り上がりながら観客席に到着すると…




「おいお前!俺よりも子供だな!」




席の上で仁王立ちしていた天弥に、勇輝は絡まれた。




「ちょっと、天弥!いきなり失礼でしょ!」




しかし、即座に騎道に叱られた。




「へへ笑、バカ兄貴、ダサ。」




さらに、妹の輝愛にもバカにされた。




「くっ……で、でも、コイツがここに来たら、この中で一番ガキなのは、コイツになるからな!」




と、叫ぶ天弥に…




「いや、どこで競ってんの笑」




莉理香が冷静にツッコミみ…




「まぁまぁ、落ち着こうよ。」




吉田が優しく宥め…




「誰も天弥君のことをガキだとは思ってないよ!」



「そうそう。」




向井と楓が励まし…




「ふぁ〜あ。」




真綾があくびをした。




「はいはい、みんな落ち着いて。模擬戦も始まっちゃうからさ。」




そして、優愛が仕切り一旦その場は落ち着いて、全員が席に着いた。



ちなみに、勇輝は観客席の2列目におり、最前列に千躰、優愛、刀花。


勇輝の右隣に、早く教えようとうずうずしている氷室、左隣に、勇輝を甘えさせようと手を握る翠月。


勇輝の後ろに、ずっと勇輝にガンを飛ばしている天弥、その隣にため息をつく騎道と、兄の様子を見て笑う輝愛が座っていた。




「未良!門倉ちゃん、桃園ちゃん!準備は良い?」




観客席から優愛が聞く。




「良いよ!」



「はーい!」



「だ、大丈夫です!」




3人の返事が聞こえ、優愛は笑顔で開始の合図をするのだった。





to be continued

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