第13話「新人魔現師の戦い 4」

模擬戦の途中で、敵である小人族の楯野優愛を前にして、虎人族の兄弟である岩本天弥と岩本輝愛が、兄弟喧嘩を始める。


すると…




「うわっ!」



「なにこれ?!」




長剣を持つ人族である騎道美波の大声が聞こえると共に、天弥と輝愛は体が揺れたような感覚を受け、驚く。




「勝手に突っ走るな!しかも喧嘩までして、みっともない!」




大盾を地面に着けた優愛が、ニコニコと3人の様子を見守っている中、騎道はまだまだ子供な兄妹を叱る。




「で、でも…」



「…とにかく攻撃する他ないだろ!」



「じゃあ、さっきと同じようにして、あの優愛さんの防御を崩せると思うのか?」



「…」



「お、思うよ!いつかは崩せるはずだ!必殺技もあるし!」



「…本当に、あのバーニアタムの盾と言われている優愛さんの防御を突破できると、君は思っているんだな?」



「…」




騎道の言葉に、天弥は俯く。




「はぁ……見栄を張らないで、正直に答えなさい。少なくとも1人では無理じゃないか?」



「……うん。」



「妹と2人でも無理だったろう?」



「うん。」



「妹もそう思うよな?」



「…はい。あと、輝愛です。」



「あ、あぁ。じゃあ、天弥、輝愛。私と3人だったらどうだ?」



「え?」



「……そ、それは…」



「分からないだろ?実際にやってもないし、何より君達は私の力も知らない。」



「じゃ、じゃあ、アンタと一緒だったら、あの人を倒せるって言うのかよ!」



「…笑、試してみようか。」




口角を上げた騎道は、2人を誘う。




「は?試すって…」



「これからは、3人で協力して戦うよ。そのためにもまずは、2人の力を教えて。私も教えるから。」



「…」



「でも、そんな話してる時間は…」



「優愛さんを見てみろ。笑顔で待ってくれてるみたいだから、それを利用しない手はない。」



「…分かりました。」




まだ不安が残っているものの、輝愛は騎道の言葉に乗った。




「うん。天弥はどうする?」



「…あぁ、分かったよ!やってやるよ!」



「笑、よし、早速話そう。」




仲間外れにされるのを嫌った天弥も賛成し、3人は少しの間、話し合いをして、作戦が定まったところで、再び武器を構えた。




「お、作戦会議は終わった?」



「はい。お待ちいただきありがとうございます。」



「笑、いえいえ。騎道ちゃんの指揮能力も見たいからね。」



「…そうですか。では、いきます!輝愛!天弥!」



「はい!」



「おう!」




騎道の後ろから、兄妹が飛び出し、先程と同じように優愛に連携攻撃を仕掛けていく。




「はっ!はぁっ!」



「おりゃ!」




ガキンッ!!ガキンッ!!




天弥の爪の横薙ぎと、輝愛の槍の突きを、回避し、盾で完璧に防御しながら、優愛は疑問を覚える。




「あれ?これじゃあ、さっきと同じじゃ……わっ!」




が、輝愛の槍の突きを盾で受け流したと同時に、体に振動を感じ、集中が少し乱れた。




「天弥!」



「分かった!」




その瞬間に、天弥が一歩下がり、そこを埋めるように騎道の長剣が振るわれる。




ガキンッ!!




「おっと…」



「ふんっ!」




ドンッ!




剣が止められたと分かった瞬間に、目の前の盾目掛けて騎道は蹴りを入れ、少し距離を取る。




「笑、へぇ〜良いね。」



「どうも!」




そして、騎道は長剣を地面に突き刺す。


すると、そこを中心に水の波が広がり始めた。




「輝愛!」



「分かってる!」




名前を呼ばれた輝愛は、足裏が水に浸かる中、優愛に向かって走り、電流を纏わせた2本の槍を突き出す。




「やっと天能を使ってきたね〜」



「はぁぁ!!」



「この盾は電気を通しちゃうから、受けたくないな笑」




そう言って、優愛は輝愛の槍を、足を濡らしながら避ける。




ビュンッ!!


ブンッ!!




「遅いよ〜笑」



「このっ!!」




何度振っても槍が当たらない上に、煽られた輝愛は、怒りのままに2本の槍を水が流れる地面に突き立てた。




バチバチ!!




「何をして……アイタタタタ!」



「へへん笑」



「ちょっ、笑ってないで早く離脱!」




地面に突き刺さる騎道の長剣を中心に広がる水に、輝愛が槍に纏わせていた電流が走り、優愛の体を痺れさせた。



それを確認するや否や、騎道は輝愛を優愛のそばから連れ出し、最後の攻撃を待つ。




「こ、これぐらいじゃダメージは…」




体を上手くは動かせないが、無理やりにでも電流が流れている範囲から抜け出そうとする優愛だったが…




「喰らえ!必殺!十爪撃!!」




真上から天弥の声が聞こえると同時に、十の風の刃が飛んで来る。




「笑、これが狙いだったか…」




ドゴンッ!!!




地面に着いた風の刃は轟音を響かせながら、地面を抉り、土煙を起こし、水を弾き飛ばした。




タッ




「ふぅ、やったかな。」



「どうだろ。」



「2人とも、油断はしないように。」




着地した天弥と、離れていた輝愛、騎道は、攻撃が直撃したであろう優愛の様子を探る。


段々と、巻き起こった土煙が霧散していき…




「あ、あれは…」




舞台の中央に、土で作られたドームが見えた。




「くっ……ガードが間に合ってたか…」



「なら、また攻撃を!」



「そうだね!」




と、天弥と輝愛が、再び攻撃姿勢に移ろうとしたところで…




「っ!!防げ!」




ガキンッ!!




「え?……ガッ!」



「なに……キャッ!」




土のドームから目にも止まらぬ速さで石礫が飛び、騎道は何とか反応し長剣でガードしたが、天弥と輝愛は防御が間に合わず、額に攻撃を受け、地面に倒れた。




「天弥!輝愛!」



「いや〜〜良い作戦だったよ。」




土のドームの中から、優愛の声が聞こえてくる。




「前と同じ攻撃を仕掛けて、私を油断させつつ、騎道ちゃんが作った隙で、天弥君が空に跳び、それを悟らせないよう、輝愛ちゃんと騎道ちゃんで私の視線を下げるように攻撃。」




騎道は次の攻撃を警戒しつつ、土のドームが崩れ、中から無傷の優愛が出てくるのを見る。




「そして、騎道ちゃんが生み出した水を利用し、輝愛ちゃんの電気で私の動きを封じて、天弥君の必殺技を確実に当てる。」



「…それでも、優愛さんの防御は崩せませんでしたけど。」



「いや、この模擬戦でこれは使うつもりはなかったから、3人は十分すごいよ。」



「……ふぅ…」



「まだやる?笑」



「もちろん!」




ダッ!




地面を蹴り、優愛に接近する。




「はぁ!!」




長身の騎道は身体強化を使用することで、長剣を軽く振り回すことができる。


さらに、長剣の連撃に、刺突や蹴り、体当たりも組み込むことで、流れるように優愛に攻撃を浴びせる。



が…




「さすがと言ったところだね。騎道ちゃんの剣術は。」




余裕のある笑みで、優愛はその全てを防ぐ。




「はぁはぁ…」



「もう限界かな?笑」



「はぁぁあ!!」




最後の体力を振り絞って、一歩踏み込み、目の前の盾を突破すべく、右手に持つ長剣に全ての力を込め、振るう。




「笑、よく頑張りました。」




ガキンッ!!




優愛は、その剣を盾で弾き、無防備となった騎道の体に、ここでようやく抜いた剣を添えた。




「降参で良いよね?」



「……はい。」




こうして、3回目の模擬戦が終了した。






「うんうん、良い戦いだった。」




笑顔の刀花がそう言う。




「最初こそ、あの虎人族の子達と、人族の子の連携が取れてなかったけど、話し合いを終えてからは全く違ったね。」



「あの人族の子は、人をまとめるのが上手みたいだ。」



「リーダーの素質あり、って感じか。」



「うん。将来が楽しみだよ。あ、もちろんみんな楽しみなんだけどね笑」



「分かってるって笑。勇輝は、さっきの戦い見てどうだった?」




未良が隣にいる勇輝に話を振る。




「なんかもう戦いの速さと迫力に驚き過ぎて、言葉が出ないって感じです。」



「笑、特にあの男の子の空中からの攻撃は凄かったね。」



「はい!」



「あの子、必殺!なんちゃらなんちゃら!って叫んでたけど、やっぱり勇輝もああいうのに憧れるの?」



「え、いや、憧れない…ってことはないですけど…」



「ちょっと未良。勇輝は年頃の男の子なんだから、そういう恥ずかしい話題には答えにくいでしょ笑」



「笑、そうなの?」



「いや〜その〜……正直。」



「ほら笑」



「じゃあごめん笑。でも、本音としては、必殺技が欲しいんだね〜」



「うわぁ、悪い顔してるよ。残念、勇輝。しばらくの間は、イジられるかも笑」



「えぇ…」




といった感じで、次の模擬戦が始まるまでの間、3人が楽しく話していると…




「未良!刀花!ちょっとこっちに来てくれない?!」




舞台上の優愛に呼ばれる。




「ん、なんだろう。」



「まぁ良いじゃん、行ってみよう。」



「そうだね。勇輝は……一緒に行こうか。」



「分かりました。」




そうして勇輝も、呼ばれた未良と刀花の後ろについて行くのだった。





to be continued

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