第12話「新人魔現師の戦い 3」
「おっと!」
ボンッ!
中衛である人族の瑞葉楓が、前衛である小人族の向井汐を助けるために放った、3つの水の刃を、後退しつつ、先程と同じぐらいの火で打ち消す。
「ん……さっきのよりも弱い……なるほど。速度と強度が反比例してるのか。」
と、千躰が楓の水の刃を分析している間に…
「まだ諦めるには早いよ!私が援護するから!パッパと体勢を立て直して攻撃して!」
「う、うん!」
「あと、あなたはどんなことをするの?教えて。」
「分かった。」
リタイア宣告をされかけた向井を励まし、後衛で杖を構えている鳥人族の吉田来栖に質問を擦る。
「今、私がやろうとしていることは範囲デバフで、場合によっては、千躰さんの動きを完全に封じることができるかもなんだけど、発現までに時間がかかるの。」
「ターゲットの指定は?」
「できないから、私の発現の時には、千躰さんから離れて欲しい。」
「了解。いけるなら合図を。」
「OK。時間稼ぎ頼んだよ。」
聞きたいことを聞けた楓は、向井の援護に集中し、伝えたいことを伝えられた吉田は、楓の後ろで杖を構え、魔力の操作に集中する。
「はぁ!てりゃ!とぉ!」
声を出しながら、向井は千躰に向かって大斧を振り回す。
ブンッ!!ブンッ!!ブンッ!!
ズドンッ!!
大斧を着地させて、向井が次の連撃へと移行する間に、楓が短剣を振る。
ビュンッ!!ビュンッ!!ビュンッ!!
迫り来る大斧を華麗に避け、反撃のタイミングを伺う千躰は、飛んでくる高速の水の刃を簡単に打ち消し、再び振るわれる大斧を回避する。
別にやろうと思えば、炎を纏わせた棒を地面に叩きつけ、爆発させることで、向井と無理やり距離を取り、先に楓と吉田を倒しにかかることもできるのだが、全員の実力を見ておきたい千躰は、それをしない。
向井は、いつまで大斧を振り続けられるのか、持っている天能は実際にはどんなものなのか。
楓は、他にできることがないのか。
吉田は、何を準備しているのか。
これらのことを探るために、千躰は今の状況を保ち続ける。
「くっ…」
「う〜ん、連撃のパターンが全部出ちゃったかな。」
と、向井の攻撃が完全に見切られてしまったところで…
「いけるよ!!」
吉田の声が響いた。
「千躰さんから離れて!!」
続いて、楓の指示も聞いた向井は、千躰の傍から跳び、楓の隣に着地する。
それを確認した吉田は、およそ1分かけて準備した現象を引き起こした。
「やっとか笑……さて、何が起こるの……っ!!」
演習場の中心から半径およそ20mの円の領域が白く光る。
その領域内にいた千躰が持っていた棒は、右手から落ち…
ゴンッ!
着地と同時に大きな音を鳴らす。
「ふぅ…良かった。当たりを引けたみたい。」
そんな千躰の様子を見て、吉田はそう言って安堵の表情になった。
「これは……重力の増加……いや、空気自体に圧迫感を感じるというか、圧力が増したような……」
自分の体が動かしにくくなっていることと、若干の呼吸のしずらさ、胸に感じる圧迫感から、今起きている現象、吉田の天能の力を分析し……
「ま、いいや。あの子の力も見ることができたし。後ろもあるから、終わらせちゃおう。」
終わる前に、模擬戦を終わらせることを決心した千躰は、身体能力強化をさらに強める。
「2人とも、領域内に入らないように攻撃して。多分、重くなってるから、発現なら強度はかなり高めで。」
「分かった。やるよ!」
「うん!」
吉田の指示を受けて、楓は短剣に水を纏わせ、向井は大斧を投げつけようと構える。
が…
「ワンテンポ遅かったね笑」
その小さな呟きの間に、棒を拾って地面を蹴った千躰が、領域を抜け出して、固まっている3人の元へと移動した。
「なっ!」
「はっや…」
「うそ……重くなってたはずなのに…」
「笑、あのぐらいじゃ、一瞬だけしか動きは止められないよ。ってことで、降参?それともまだやる?」
という千躰の言葉に、3人はそれぞれの反応を示した。
「…」
「ど、どうする?」
「やります!」
楓は黙り込み、吉田は周りを見て、向井はすぐにやる気を見せる。
「そっか。2人は?」
「……私もやります。」
「じゃあ私も。」
「笑、良いね。なら、再開ってことで!!」
その後、再び戦いが始まったものの、模擬戦を終わらせる方向にシフトした千躰に、3人が敵うわけもなく、10秒も経たないうちに、地面に倒れるか、優愛に受け止められるかされたのだった。
「いや〜見応えのある試合だったね。」
「だね。3人ともちゃんと自分の役割を分かってた。」
観客席から勇輝と共に模擬戦を見ていた刀花と未良が、その感想を言う。
「何より、人族の子の動きが良かったよ。前衛と後衛の間を取りまとめつつ、前衛の援護と後衛の攻撃までの時間稼ぎを行う。どこかで魔現師達が戦ってるのを見たか、学んだのかな。」
「うん。勇輝、今さっきの模擬戦はしっかりと覚えといてね。あれが魔現師の本来の戦い方だから。」
「本来の戦い方?」
「そう。魔現師はそれぞれに得意分野を持ってるから、チームで動くことが多いの。魔物と戦う時も、探索をする時も。で、魔物や敵と戦う時には今さっきみたいに、近距離攻撃を仕掛けたり、敵の攻撃を受け止める前衛、前衛の援護や、後衛の手助けを行う中衛、遠距離攻撃をしたり、味方の補助を行う後衛、って感じで役割分担をするんだ。」
「なら、1人で戦うことは無いんですか?」
「そりゃあ、場合によってはあるよ。なんなら、人によっては1人で戦う方が良いって言う人も、1人でそれらの役割全てを担える人もいるからね。」
「へぇ〜」
「笑、その、1人で全部の役割を担える人っていうので、1番分かりやすい例は、未良だよ。」
「あ、確かに。ピージョとかオルジイさん、ドラさんと一緒に戦えば、他の魔現師と一緒に戦うのと同じですもんね。」
「まぁね。」
「ほんと、未良がいれば依頼が楽になって、助かるんだ笑」
「それはお互い様でしょ笑」
「え、そう?笑」
と、笑い合う2人を見ながら、仲良しだな〜と思いつつ、勇輝は再び舞台に視線を戻す。
「よし、次にいくよ。」
模擬戦を終えた3人が、観客席に座ったのを見て、千躰がそう言う。
「ねぇ、そろそろ交代しない?連火も少しは疲れてるだろうし。」
と、3戦連続で戦おうとする千躰を、優愛が止めた。
「別に全然大丈夫だけど……そうだね。交代した方が良いか。」
「うん。さ、連火はこっちに座って。」
「笑、分かったから。」
そうして、位置を入れ替わるように、千躰は観客席に座り、優愛は舞台の中央に立つ。
「じゃ、次に戦う人を呼ぶよ!まずは、"
「はい。」
「おう!」
「はーい!」
優愛に名前を呼ばれて、長剣を背負った長身の人族の女性…騎道美波はゆっくりと堂々とした足取りで。
虎のような丸い耳と尻尾、頬に黒い縞模様が入っている獣人族、"虎人族"の兄妹…岩本天弥と岩本輝愛は、元気よく返事をして観客席から舞台にジャンプした。
「よっしゃ!やっと出番だ!」
「え〜優愛さん!なんでバカ兄貴と一緒なんですか!」
「なっ…それはこっちのセリフだ!」
「はぁ?」
「ちょっと、喧嘩はやめてよ〜」
喧嘩をする兄妹を、困った表情の優愛が止めようとするが…
「マジで妹の癖に生意気なんだよ!」
「たった1つしか変わらないのに、偉そうに言っちゃって、ダッサ!」
言い合いを止める様子が全くない。
「この前から兄妹喧嘩が激しいとは思ってたけど……どうしよう…」
「はぁ……」
そんな状況を見て、優愛の次の指示を黙って待っていた騎道が、痺れを切らした。
「2人ともやめなさい!!」
「「っ!!は、はい!」」
強烈なプレッシャーと共に発せられた大声に、喧嘩をしていた2人は驚き、咄嗟に返事をする。
「ここまで来て喧嘩をするな。誇りある虎人族の名が廃るぞ。」
「「す、すみません…」」
騎道の言葉で、兄妹は大人しくなり、優愛は安心した表情になる。
「ありがとね、騎道ちゃん。」
「いえ。こちらこそすみません。」
「笑、真面目なんだね、騎道ちゃんは。」
「//…さ、早く始めましょう。」
「うん。3人とも準備は良い?」
「はい。」
騎道は背中から長剣を抜き、両手で持つ。
「はい!」
「もちろんだぜ!」
ビビっていた兄妹も、模擬戦が始まるということで、戦うことが好きな虎人族らしく、テンションを上げて、それぞれの得物を構えた。
「じゃ、連火!よろしく!」
「はいよ。では、模擬戦始め!」
という、千躰の合図を聞き、優愛は盾を構え、騎道はそんな優愛から一旦距離を取り、3人で作戦を立てようと考えていたのだが…
「さっきはダメなところを見せた分!ここで取り戻すぜ!!」
「優愛さん!覚悟ーー!!」
虎人族の兄妹は、笑顔で優愛に突っ込んで行った。
「嘘でしょ…」
「笑、元気が良いね。さぁ、かかって来い!」
「おりゃあ!!」
まずは、空中に跳び上がった天弥が、虎人族が持つ五指の爪を、優愛に振り下ろす。
それと同時に、輝愛は両手に持つ2本の短い槍の片方を、突き出した。
ガキンッ!!
優愛は、輝愛の槍を半身になることで避け、天弥の爪を盾で受け止めた。
「はぁぁ!!」
「オラオラオラァ!!」
それに構うことなく、天弥は優愛の周りを跳び回りながら、爪を振り下ろし、輝愛は天弥の体で死角になるところを、的確に槍で突いていく。
ガキンッ!!ガキンッ!!
「さすが兄妹。良い連携だね笑」
「全然!そんなこと!ないです!」
「連携じゃなくて!ただやりたいようにやってるだけだ!!」
絶え間なく攻撃を仕掛け、それを受けながら会話をする。
「じゃあ、連携のつもりがなくても、連携攻撃になっちゃうぐらいに息が合ってるんだよ。仲良しだね〜笑」
優愛は本当に思ったことを笑顔で言っただけだったのだが、それは岩本兄妹の攻撃を単調にするような結果を生んだ。
「そんなんじゃねぇよ!!」
「仲良くないです!こんなヤツと!」
これまでは、お互いの隙を埋めるように攻撃を仕掛けていたのが、否定の言葉と共に同時攻撃を仕掛けてしまった。
「そうは見えないんだけどな〜笑。仕切り直そっか。」
ガンッ!!!
優愛はそう言って、同時に盾に受けた爪と槍を弾き、天弥と輝愛を後方に飛ばす。
「くぅ〜ダメか…」
「もう!バカ兄貴のせいだよ!」
「は?!ふざけんな!お前のせいだ!」
「違う!バカ兄貴のせい!」
と、着地した先で2人が言い合っていると…
「いい加減にしなさい!!」
舞台に騎道の声と波が広がった。
to be continued
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