第11話「新人魔現師の戦い 2」

「さぁ、仲間の1人がやられたけど、それを傍観してた2人は、これからどう動くのかな?」




新人魔現師で鬼人族の羅刹莉理香が、楯野優愛に受け止められたのを、土煙越しに確認した千躰連火。


模擬戦相手である残りの新人魔現師2人を視界に入れようと、振り返るが…




「っ!!」




カキンッ!




その瞬間に、背後から首元に向かって振り下ろされた短剣を、棒で受け止める。




「おっと……君は、殺意マシマシだね笑」



「…全力で、と言われたので。」



「うん。それで良いよっと!」




まだ残っている土煙の中に、フードに隠れて顔が見えない雅を弾き飛ばす。



千躰は、土煙に紛れる雅に追撃を仕掛けるために、一歩を踏み出そうとしたが…




「あれ…」




土煙の中で姿は見えないものの、しっかりと捉えていた雅の気配がゆっくりと薄まっていき、完全に消えたことで、その足を止めた。




「天能か……こりゃ、爆発させたのは間違いだったかな…」




と、自分の失敗を振り返りながら、雅の次の攻撃に集中していると…




「いけ〜」




今度は、背後から声が聞こえ、それと共に、千躰の足元に風が渦を巻いて集まり出す。




「おっと…」




ビュンッ!!




そして、集まった空気が回転しながら真上に吹き上がり、千躰の体も回転しながら空中に飛ばされた。




「はぁ〜!!」




風を纏った棒を振り上げて空中に飛び上がった犬人族の真綾は、千躰の体目掛けて、棒を振り下ろそうとする。



しかし…




ボンッ!!



そんな音を鳴らしながら、千躰が手に持っていた棒の先端から大きな炎が吹き出し、真綾が生み出した風で回転していた体に、更なる回転を加え…




ドドドドドド!!!




その回転は辺りに響く轟音と共に、どんどん速くなっていき、棒の両端の軌道に沿って流れている炎が、千躰の周りに球を形成する。




「っ…てりゃ〜!!」




目の前の状況に驚きながらも、真綾は思いっきり、腕を振り下ろす。



渦を巻く風と、球に見えるぐらいに高速で回転している炎が衝突した。



が…




「え…」




千躰の炎にぶつかった瞬間に、真綾が持つ風を纏った棒は、横に逸らされ、真綾は腕を振り下ろした勢いのまま、地面に向かって落ちていく。




ドーン!




辺りに風を巻き起こし、石のタイルの破片を飛ばしながら、真綾は着地した。




「いてて………っ!!」




ボゴーーン!!




上から落ちてくる炎に気づき、真綾が真横に跳んだ直後、地面に火柱が立ち昇った。




「いや〜〜ヒヤッとしたね。良い攻撃だったよ。」



「ど、どうも…」



「さ、実力も見れたことだし、終わらせちゃおうかな。」




ダッ!




そう言って、先程の回転と同じ要領で、棒から火を連続的に吹き出し、急加速した千躰は、瞬時に真綾の背後を取る。



そして、左手で真綾の肩を掴みつつ、真後ろに向かって、棒を突き出した。




「降参で良いかな?………2人とも。」




目の前の真綾と、背後で首元に棒を突き付けられている雅にそう聞く。




「こ、降参です……」



「……同じくです。」




と、2人が答えたことで、最初の模擬戦が終了した。




「おつかれ。ちゃんとした評価は、後からみんなまとめてやるから。2人とも怪我は…」



「してないです。」



「ないです。」



「なら、席に座っといて。」



「は〜い。」



「はい。」




そうして、真綾と雅は、既に他の新人魔現師達の後ろに座っていた莉理香の隣に座った。






「あの犬人族の子は風属性だろうけど、フードの子は何属性なんだろう。」




新人達の戦いに満足気な笑みを浮かべていた刀花が、未良に聞く。




「う〜ん……土煙が舞ってたとはいえ、連火が追撃を止めたってことは、あの子を見失った…つまり、あの子は気配を消したんだろうから……笑、勇輝はどう思う?」




ある程度のヒントを口に出したところで、未良は勇輝へ質問を流す。




「え………気配を消す……無属性ですかね。」



「なるほど。『不可視化』とか『隠密』とかその類の天能って考えか。」



「あぁ〜有り得ないこともないね。私は闇属性っぽさを感じたけど。」



「そっか。フードの子は、種族も分かんないし、実質の攻撃は奇襲1回だけだから、実力もよく分かんないし、謎が多いね。」



「うん。」




と、2人が話しているところに、勇輝が質問を投げる。




「模擬戦を見てて気になったんですけど、なんで皆さん、あんなに速く動けたり、高く跳べたりできるんですか?あれも、天能の力なんですか?」




これに対し、未良が答える。




「いや、天能の力じゃないよ。だって、連火は火を出せる天能で、犬人族の子は風を出せる天能、鬼人族とフードの子はまだ分からないけど、おそらく、この4人が持つ天能は全く違うのに、もし、あの身体能力の強化が天能の力だとしたら、おかしくない?」



「確かに……じゃあ、何なんですか?」



「あれはね、内魔力による発現なの。」



「内魔力……あ、そっか。天能の発現は外魔力によるものだから…それに、内魔力によって発現できるものは、みんな同じだって、前に聞いたかも。」



「うん笑。前に言ったように外魔力を消費することで、私達は自分の持つ天能に沿った現象を起こすことができる。それに対して、内魔力を消費して起こせる現象は、基本的にはみんな同じで、起こる現象は3つしかない。」



「そのうちの1つが、身体能力の強化ってことですか。」



「そういうこと。」



「なら、あとの2つは…」



「う〜ん、もう1つは思考速度の上昇で、あと1つは…また今度ね笑」



「分かりました。楽しみにしてます笑」



「ちなみに、さっきの3人の中で、身体能力強化が一番上手だったのは、鬼人族の子だね。」




2人の会話を聞いていた刀花がそう言う。




「へぇ〜だから、あの千躰さんのものすごい攻撃にも耐えられたんだ。」



「うん。天能の力も使ってたっぽいから、連火の連撃を防ぎ切れたのは、あの子の天能の力と身体能力強化と盾の扱いの上手さが合わさった結果だよ。」



「家で相当な訓練を積んだんだろうね。」



「ん?未良、聞いてなかったの?」



「何を?」



「あの子の苗字、羅刹だよ笑」



「え、そうだったんだ。なら、あれだけできるのは、当たり前か。」



「まぁ、当たり前というか、それだけの努力をしたんだろうけど。やっぱ、聞いてる通り、すごい家なんだね。」



「うん…」




こんな未良と刀花の会話を聞いて、羅刹という苗字であることに、どんな意味があるのかが気になるけれども、それを聞くのは何となく今じゃないと思った勇輝は、未良と刀花から聞いた知識を整理し、好奇心をさらに高めつつ、次の模擬戦が始まるのを見ていた。





「じゃあ、次は……"向井汐むかい うしお"、"瑞葉楓みずは かえで"、"吉田来栖よしだ くりす"!」



「「「はい!」」」




千躰に名前を呼ばれて、今度は、大きな斧を背負った小人族の向井汐と、軽装備で短剣を背中側の腰に差している人族の瑞葉楓、そして白いローブを着て両手杖を持つ、白い髪と白い羽が合わさったような美しい髪をしている女性…吉田来栖が、観客席から出てきた。





「未良さん。あの白のローブを着ている女の人って…」



「あぁ、あれは、"鳥人族"だね。獣人族と似てるけど、鳥人族は鳥の特徴の一部を持った種族。」



「え、ってことは、鳥人族の人達は、みんな空を飛べるんですか?」



「いや、聞いたところによると、鳥人族の中の種族…獣人族で言う猫人族とか犬人族とかと同じ感じで、その種族によっては、飛べない人もいるみたい。」



「へぇ〜じゃあ、あの人は…何族なんでしょう。」



「う〜ん、白い羽だけじゃ判別できないね。刀花は?」



「私も同じく。」



「だよね。後から聞いてみよっか。」



「はい。」






「よし、3人とも準備できてるみたいだし、始めよう。優愛!」



「はーい。では、模擬戦、始め!」




優愛の合図で、千躰を前にした3人は、自分が最も戦いやすい位置にすぐに移動し、武器を構えた。



吉田は千躰からできる限り離れ、その間で向井と楓が会話をする。




「大斧だから、武器的にはゴリゴリの前衛って感じだけど、どうなの?」



「そうだよ。あなたは?」



「私は前衛と中衛、どっちもいける。」



「なら基本は中衛で、私の援護をしてもらっていい?私はとにかく突撃することしかできないから。」



「うん。じゃあ、あなたが突撃する前と攻撃の合間に、水の刃を飛ばす。」



「分かった。あと、鳥人族の子は後衛みたいだけど、どんな攻撃をするか分からないから、私が千躰さんを止めてる間に、聞いといて。」



「了解。」




と、千躰を警戒しながらの話し合いを終え、向井は大斧を横に構え、楓は短剣に水を纏わせる。




「ちゃんと前の模擬戦から学んでたみたいね。さぁ、どんな作戦を立てたのかな。」



「行くよ!」



「はっ!!」




ビュンッ!!



ダッ!




楓が振るった短剣から、水の刃が飛び、それと同時に向井が地面を蹴る。




「ふ〜ん笑」




ボッ!




自分に向かってくる水の刃と、その後ろから大斧を構えて接近してくる向井、さらに後方へと下がった楓、その近くで杖を構える吉田を視界に捉えている千躰は、まず棒に火を纏わせる。


そして、水の刃に棒を振り下ろす。




「ん……中々に強い。」




ボンッ!




想定以上に水の刃の"発現強度"が高く、今のままの力では打ち消せないと思った千躰は、棒に纏わせる火をさらに強くし、水の刃を叩き切った。




「はぁぁ!!!」




その瞬間に、向井が持つ大斧が右側から振るわれる。




ブンッ!!




「これじゃあ、受け止められないね…っと!」




今手にしている棒では、向井の大斧による攻撃を受けられないと思い、薙ぎ払われた大斧の上を跳ぶ。




「まだまだ!!」




それを見た向井は、空ぶった大斧を、体ごと回転させて、上から千躰目掛けて振り下ろす。




「良いね!」




ボンッ!




再び棒から火を吹き出して、推進力を得た千躰は、空中を横に移動し、大斧を避ける。




ドゴンッ!!




地面に立つ人が浮き上がるかのような衝撃を放ちながら、振り下ろされた大斧が地面に激突し、石のタイルを抉った。




「また避けられたか。でも!」




大斧での連撃を完全に避けられた向井は、悔しがりながらも、大斧を左手で掴みながら、前を向く。




「あぁ〜さっきまでは良かったんだけどね。体の回転を利用して、空ぶった後隙を無くし、次の攻撃に繋げる。けど、大斧が地面に刺さったから、連撃を中断しちゃうのは、まだまだって感じ。」



「す、すみません!」



「笑、じゃ、君はリタイ…」




ビュンッ!!ビュンッ!!ビュンッ!!




向井に棒を向けて、リタイア宣告をしようとした千躰だったが、向井の横から高速で飛んできた3本の水の刃によって、それを止められた。





to be continued



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