第16話「新人魔現師の戦い 7」

両隣に座っている氷室と翠月から、魔現師に関する色々な情報を聞き、新たな知識を蓄えた勇輝。


2人の言う通りに、舞台上で行われる模擬戦に、再び意識を集中させたのと、ほぼ同時刻に…




「すぅ……はぁ………よし、いけます。」



「ブォン。」




体の震えを完全に止め、緊張をちょうど良いぐらいにまで抑えた桃園が、背中から大剣を抜き、ガロスに構えた。



そして、もう1つの戦場でも…




「ブモォ笑」



「ずっとバカにして〜」



「ブモブモ笑」



「そろそろ本当に、叩きのめしてやる!!」




堪忍袋の緒が切れた門倉が、メロスに向かって、巨槌を構えた。



こうして、本格的に戦いが始まる。




「ブモォ。」




メロスは、小さな門倉が構えたのを見て、斧を持っていない左手の指をクイクイと動かし、攻撃を煽る。




「うぬぬ…」




ダンッ!!




それを見て、門倉は思いっきり地面を蹴り…




「くらえぇ!!」




メロスの顔目掛けて、巨槌を振る。




ガキンッ!!




「ブモォッ!」




もちろんのこと、メロスは斧で防御したのだが、武器越しに感じる門倉のパワーに驚く。


そして、一旦距離をとるために、巨槌ごと弾き飛ばそうとしたのだが…




「うぉぉおお!!」




巨槌による攻撃を防御されたことで、一瞬だけ空中で動きが止まったところから、門倉の体が金色の光に包まれ、更なるパワーを生み出した。




「おりゃぁ!!!」




ブンッ!!!




「ブ、ブモォォ!!」




予想外の力を受け、メロスは真横に弾かれる。


それにより、メロスは門倉への認識を改めた。



小さな弱い人間から、強い戦士へと。




「まだまだぁ!!」



「笑、ブモォォォオオオオオ!!!」




巨槌を構えて突っ込んでくる門倉に対し、メロスも雄叫びをあげながら、斧を構えて迎え撃った。




ガンッ!!



ガンッ!!



ガンッ!!!




門倉とメロスの大きな武器が、激しくぶつかり合う。




「はぁぁ!!!」




斧の縦振りに、巨槌を真横からぶつけることで、軌道を逸らしつつ、メロスの体勢が崩れることを狙う。



しかし、メロスが足を踏ん張り、次の攻撃に移ろうとしたのを見て、空中で回転しながら上昇し、メロスの頭に巨槌を打ち込む。




「ブモッ!」



「どかんっ!!」




ガキンッ!!!




門倉の動きから、攻撃を瞬時に判断したメロスは、斧を頭の上に構えて巨槌を受け止める。




「このぉぉお!」



「ブ、モォォオオ!」




そのまま押し潰そうとする門倉の力と、それを押し上げようとするメロスの力が均衡し、しばらくの間、その状態が続く。






「えぇぇ…メロスのパワーとほぼ互角だなんて……」




観客席に座る刀花は、門倉の戦いを見てかなりの衝撃を受ける。




「あんなに体は小さいのにね。」



「ほんとそれ。優愛と変わらないのに笑」



「あ、今、バカにしたでしょ、連火。」



「別にそんなことないけど?笑」



「門倉ちゃんの天能は、更なる身体強化と飛翔っぽいけど……あのパワーは、ダブル日奈に匹敵するかも…」




刀花は、頭の中に仲間を想像しながら、そう呟いた。




一方、桃園とガロスの方は…




「ふっ!」




斧を真っ直ぐに構えるガロスに対し、桃園は自分の間合いにガロスが入る場所まで接近し、大剣を両手で振るう。



まずは、斧を持っている右手から狙い、それを避けられたら、一歩だけ右足を下げたことにより前に出た左足を狙って、流れるように大剣を動かす。




「ブォッ!」




桃園が振るう大剣は、空気を切る音を鳴らさないため、動きが読みにくいのだが、ガロスは目で確実に動きを捉え、最小限の動きで大剣を避ける。



そして、ガロスも避けるばかりではなく、いくら動きがスムーズだとはいえ、大剣を振っている以上、必ず隙は生まれるので、その隙を狙って斧を横に振るう。


それは、斧が地面にぶつかれば、小さくない隙が生まれ、桃園にとっては格好の的になるとガロスが考えているからだ。



桃園は、その横薙ぎをジャンプで避けつつ、回転し遠心力を使って大剣を振り、更なる攻撃を狙う。



再び後退を余儀なくされたガロスは、足音を鳴らさず一歩下がり、反撃の機会を伺いつつ、桃園の攻撃を見極める。



このように、2人はお互いの武器をぶつけることはなく、相手の攻撃は全て避けているため、この戦場では、各々の声以外の音が聞こえず、これまでの戦いと比べると、とても静かな空間であった。



が…




ブンッ!!



ダッ!




地面スレスレに斧が薙ぎ払われ、若干ガロスの体勢が崩れているタイミングで、桃園は高く跳び上がり、大剣を上に構える。


そして、大剣にかかる重力のままに、ガロスの頭目掛けて、振り下ろす。



ガロスは、それを見て同じように…




「ブオッ?!……ブォォ!」




ガキンッ!!!




避けられなかったため、ここで初めて、桃園の大剣とガロスの斧がぶつかった。


ガロスは、メロスと違って力任せの戦いは好まないため、普段から敵の攻撃は避けるようにしているし、この攻撃も通常なら避けられた。



ではなぜ、避けられなかったのか。


それは…




「はぁぁ!!」



「ブ、ブオォォ…」




バキバキ!!




桃園の攻撃を受け止めるガロスの足が石のタイルを割り、ガロスを中心とした半径2mの円内の地面が陥没し始める。


その中でガロスは、全身に感じるその重さに抗う。



そう、ガロスの周りだけ重力が増加しているのだ。



桃園の天能の力により、攻撃を避けようとしたガロスは急激な重力増加を受け、体を思うように動かせなかった。


その結果、大剣を斧で受け止めることとなり、今も、増加した重力と、それにより増幅した桃園のパワーに苦戦を強いられているのだ。



このような2つの戦場を、少し離れたところから、未良は楽しそうに眺める。




「門倉ちゃんも桃園ちゃんも、随分と強いな。このままだとメロスもガロスも負けちゃいそうだ。まぁでも、素の力も天能の力も引き出せたし、連火と優愛はもう十分満足でしょ。」




未良は、すっと背筋を伸ばす。




「そろそろ終わらせちゃおう。」




そう言って、大きく息を吸い込み、こう叫んだ。




「メロス!ガロス!!天能使って良いよ!!そして力の差を見せつけてあげなさい!!!」




未良の声が演習場に響き、戦う2体の耳にも言葉が届くと…




「ブモォォォオオオオオ!!!」



「ブオォォォオオオオオ!!!」




門倉の巨槌を受け止めるメロスが、桃園の大剣を受け止めるガロスが、同時に雄叫びをあげる。


その瞬間に…




「わぁぁ!!!」



「きゃぁぁ!!」




門倉と桃園は吹き飛ばされた。




「な、なに?!」



「くっ…」




空中にいた2人は、それぞれで着地し、すぐに攻撃を仕掛ける。


門倉は、体に纏う金色の光をさらに強めて、巨槌を振り、桃園は、再び跳び上がり、強めた重力の中で大剣を振り下ろす。



しかし…




「ブモォォ!!」




ガンッ!!




巨槌の攻撃は、メロスの右腕に簡単に防がれ…




「ブォ。」




大剣の攻撃は、ガロスに簡単に避けられた。




そして…






「ブモォ笑」



「くぅぅ……参った!」



「ブォ。」



「…負けました。」




体を掴まれた門倉と、背中に斧を添えられた桃園は、降参したのだった。




「笑、おつかれ、2人とも。」




未良は、メロスとガロスに連れられてきた門倉と桃園に、笑顔でそう言う。




「この牛さん、めっちゃ強かったけど、次は負けない!」



「そう笑。頑張って。」



「あ、ありがとうございました!」



「さっきまでは、ものすごく落ち着いてたのに、また緊張しちゃったんだ笑」



「す、すみません。戦ってる時は集中してたので、多少はマシになってたんですけど、こう実力を見られてるというか、皆さんに見られてるって思うと、緊張しちゃって…」



「そっか。」




2人と軽く会話した後、その後ろに立つメロスとガロスを見る。




「メロス、ガロス、ありがとう。また次の時も、よろしくね。」



「ブモォ!」



「ブォン。」




それぞれが未良の言葉に返事をし、体が黒い煙に包まれ始め…




「バイバイ!!」



「ありがとうございました。」




門倉と桃園の声を聞きながら、煙の中に消えていった。






「あの2人も凄かったけど、さすが調停者様って感じだったね。」



「うん……チョウテイシャトイウテンノウガドウイウモノナノカクワシクハワカラナイケド、オソラクマモノヲナカマニスルニハタタカッテカタナキャナラナイトオモウカラ、ソコノトコロカラチョウテイシャサマノツヨサハウカガエルシ、ナニヨリアノマモノトノシンライカンケイハ、チョウテイシャサマノヤサシサトユウカンサニヨルモノニチガイナイ、イヤホントスゴイナ、アト…」



「やっぱ、このモードになるか笑。じゃあ、勇輝君はどうだった?」




氷室がオタクモードを発揮している横で、口をあんぐりと開けている勇輝に翠月は聞く。




「い、いや、初めて魔物が戦ってるところを見て、その迫力にびっくりしちゃって……」



「特に、ミノタウロス…多分あれは、その上位種だろうけど、肉弾戦が得意な魔物の戦闘は、とにかく激しいからね。」



「それと、あんな大きな魔物に力で負けない、門倉さんと桃園さんも凄かったです。」



「ほんとそれ笑。少なくとも私は、パワー勝負じゃ勝てないな〜」



「そうですか。」




と、勇輝と翠月が話していると…




「よし!最後の模擬戦に移ろう!」




立ち上がった優愛がそう言う。




「刀花と、氷室ちゃん、茅野ちゃんは準備をお願い。」



「うん。勇輝、ちゃんと見とくんだよ笑」



「あ!剣神様!勇輝君、私のこともちゃんと見ててよ!」



「は、はい笑」



「はわわわ…トウトウキテシマッタコノトキガワタシニチャントタタカエルダロウカ…」



「もう、氷室ちゃん!早く行こ!」




グイッ




無理やり氷室の手を引っ張って、勇輝に手を振りながら、舞台に走って行った。




「あははは笑……ほんと面白い人達だな…」



「楽しそうに喋ってたみたいだけど、仲良くなれた?」




翠月と氷室と入れ替わるように、観客席に戻ってきた未良が、勇輝に聞く。




「あ、未良さん。まぁ、そうですね。仲良くなれたと思います。」



「そっか笑、それなら良かった。」




笑いながら、未良は勇輝の隣に座る。




「さっきの戦いはどうだった?メロスとガロス、かっこよかったでしょ。」



「はい!メロスさんとガロスさん?は、迫力が凄かったです。」



「だよね笑。あ、メロスはあの小さい子と戦ってた、右の角が短いお調子者で、ガロスはその隣の緊張しいな子と戦ってた左の角が短い堅物。」




優愛と千躰からいくつか席を離して、最前列に座った門倉と桃園を見ながら言う。




「へぇ〜あの、メロスとガロスの階級って何なんですか?」



「お、魔物の階級については聞いたんだ。」



「はい。氷室さんと茅野さんに聞きました。他にも、クラン協会のことや、クラン協会が定めているクラン、魔物、依頼の階級のこと。あと、未良さんが天魔現師っていう凄い人だってことも聞きました!」



「笑、そうでもないよ。クラン協会が勝手に言ってるだけだし。」



「いやいや。そんなことないでしょ。」



「笑、で、メロスとガロス…種族名はメガタウロスっていうんだけど、クラン協会によればA級。でも、メロスとガロスは戦いの経験がたくさんあるし、魔石…他の魔物の魔素器官もかなり食べさせたから、多分、特A級ぐらいにはなってるんじゃないかな。」



「特A級ですか……まだ強さのイメージが明確には分からないですけど、僕が戦ったら一瞬で殺られるってことは分かります笑」



「今なら確実にそうだね笑。でも必ず倒せるようになるから、頑張るよ。」



「はい!」




こうして、未良が勇輝を意気込ませたところで、模擬戦の最終戦が始まる。





to be continued

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