第8話「バーニアタム到着 3」
到着したバーニアタムの大演習場で、猫人族の槻谷碧依と挨拶を交わした勇輝達。
演習場から未良達の目的地まで、途中で槻谷が女性であることを知った勇輝が驚き、未良と刀花が大笑いするという一幕も挟みつつ、このバーニアタムの本拠地についての話を聞きながら歩き…
「よし、ついた。」
そう未良が言ったところ…キャプテン室と書かれたプレートが張られた木製の扉の前、で立ち止まった。
「ここに、バーニアタムのキャプテン…一番偉い人が…」
「うん。さ、入るよ。」
少し話したことで、勇輝と多少は打ち解けた槻谷が、扉をノックする。
コンコン
「どうぞ〜」
するとすぐに、扉の向こうから返事がきた。
ガチャ
「勇輝、元気良くね笑」
扉を開けようと、槻谷がドアノブを下げた瞬間に、未良が笑って勇輝に言う。
「はい。」
「笑、玲夢。未良と刀花、あとお客さんが来たよ。」
槻谷がそう言いながら、扉を開け、それに続いて未良、刀花、勇輝も部屋の中に入った。
部屋の中には、真ん中に大きな机とその横に向かい合ったソファが置いてあり、両壁際には棚が設置され、そこには大量の資料が収まっていた。
そして、奥の壁にはガラスが張られ、そこから先程勇輝達がいた演習場が見られるようになっており、その手前には大きなデスクが設置され、そこに積み上がった紙の束と、後ろの窓から差し込む光を背中に受けながら、高級そうな椅子に座る人物が、勇輝には印象的だったらしい。
部屋に入った途端に、勇輝の目は、積み上がった紙の束に少し隠れているものの、存在感のあるその人物に釘付けになっていた。
「おかえり、未良、刀花。」
「ただいま。」
「ただいま、キャップ。」
「ま、色々とあったんだろうけど、それを聞くよりも前に……初めまして。バーニアタムのキャプテンの"
綺麗な顔立ちで、人族よりも耳が少し長く尖っているその女性は、未良と刀花の間にいる勇輝を見て、微笑みながらそう言った。
「あ、阿閉勇輝です!!」
紫明が醸し出す、上品なオーラを目の前に、勇輝はかなり緊張していたのだが、未良が言った通りに、元気に名前を言う。
「阿閉勇輝君ね。よろしく。」
「よろしくお願いします!」
「笑、元気があって良いね。どの種族も子供は元気な方が良いよ。」
「あ、はい…」
と、紫明の言葉に、勇輝が戸惑いながらも返答していると…
「あれ笑、玲夢も勘違いしちゃった?」
未良がニヤニヤしながら言う。
「え?」
「まぁでも、玲夢からすれば、私達も子供だからね〜笑」
「ってか、何その感じ。お客さんの前だからって、良い感じに見せようとしてるの?笑」
それに続き、刀花と槻谷も、ニヤニヤとしながら、紫明に言う。
すると、紫明の女神のような微笑みが崩れ、悔しそうな表情へと変わった。
「くぅ〜3人ともニヤニヤ、バカにして!少しくらい良いじゃん、良いとこ見せようって思ったって!それに、みんなのこと子供だなんて思ってない!」
「あ、やっといつもの感じに戻った笑。勇輝、これが玲夢の本性だからね。安心して。」
「本性ってなんだよ!別に、さっきのも私だし!もう!」
「はいはい笑」
「それで、未良が言った、私の勘違いって何?勇輝君は子供じゃないってこと?」
「あぁ、それ、私も気になった。見た感じ勇輝君は、人族の10歳いかないぐらいの子か、"小人族"の子だけど。違うの?」
未だに勇輝の名前以外のことも、勇輝がここに来た経緯も知らない紫明と槻谷が聞く。
「勇輝、本当のことを言ってみて。」
そう未良に言われて、勇輝は答える。
「はい、人族で15歳です!」
「え、15歳なの?」
「あれ、人族でそれぐらいだと、もっと大きいイメージだけど…」
それを聞いた槻谷と紫明は、同じようなリアクションをとった。
「やっぱ、そういう反応になるよね笑」
「で、2人も不思議に思った、歳の割に小さい勇輝の体と、私が勇輝をここに連れて来たことには深い繋がりがあって、まず、それを説明するには、私が勇輝と出会った過程を話さないとなんだけど……」
未良がそう切り出すと、紫明が皆にソファに座るように言い、全員が体を落ち着けた上で、未良は目の前に座る、まだ事情を知らない2人に、これまでのことを話し始めた。
遺跡探索中に、ピージョが禁魔道具に封印され、それを何とかするために駆け込んだ平和居村で、勇輝と出会ったこと。
勇輝の天能でピージョを解放できたこと。
勇輝からの質問を答える中で、年齢を聞き、疑問を抱いたこと。
オルジイの『鑑定』で勇輝を見ると、内魔素を封印されているのが分かったこと。
自分自身に天能を使ったことで、封印されていた内魔素の一部が解放され、勇輝が魔力暴走を起こしてしまったこと。
それを、合流した刀花の助太刀で止めたこと。
内魔素が増えたことで、魔力暴走を起こす可能性が限りなく100%になってしまった勇輝に、魔力を扱う術を教える必要があると思い、ここに連れてくるという選択をしたこと。
これらの話を聞く中で、紫明と槻谷は色々と気になることがあったようで、そこを未良と刀花、そして勇輝に聞きながら、事情を正確に理解していった。
「内魔素の封印か……」
「キャップでも、聞いたことない?」
「あったら、共有してるって。今の勇輝君みたいに、魔物以外が内魔素を増やすってことの原因になりうるんだから。」
「それもそっか。キャップでも知らないとなると、勇輝は、生きてる途中で内魔素が増えた、初の人ってことになるかもじゃない?笑」
という隣に座る刀花のポジティブな発言に、未良も笑顔で肯定する。
「確かに笑。良かったじゃん、勇輝。」
「世界初ってことですか……これで立派な魔現師になれたら、より箔がつきますかね?笑」
「つくつく笑。まぁ、それを勇輝が公表したらの話にはなるけど。」
「ふ〜ん笑、勇輝君は立派な魔現師になりたいんだ。」
ニヤニヤに近い微笑みを浮かべながら、紫明が向かいの勇輝を見る。
「はい、なりたいです!」
「ちなみに、勇輝を立派な魔現師にすることも、勇輝に魔力を扱う術を教えることと同じ、私の使命だと思ってるよ。」
「そっか笑。じゃあ、私達も勇輝を立派な魔現師にするべく、協力しましょうかね。」
「え、良いんですか?!」
紫明の言葉に、勇輝は驚く。
「良いも何も、未良がここに連れて来た……いや、未良が面倒を見るって言った時点で、未良が所属するバーニアタムは、無関係じゃなくなるからね笑」
「なんか、その言い方だと、嫌々って感じがしない?笑」
槻谷がそう言うと、紫明は慌てて否定する。
「あ、ほんと違うよ!私達も協力したくて、こう言ってるだけだし。何より、立派な魔現師が増えることは、私達、既存の魔現師にとって、望むところだからさ。勇輝君には、ぜひ、立派な魔現師になって欲しいんだ。」
「っ!…ありがとうございます!」
「笑、じゃあ早速、具体的な話をして行こうか。」
この、笑顔の紫明の言葉で、勇輝は、未だにあまり知らされていなかった自分のこれからの生活が分かると思い、不安と期待と緊張を抱いた。
「あのさ、玲夢。まず聞きたいんだけど、勇輝って、今すぐにここに所属することってできる?」
未良が真剣な表情で聞く。
「う〜ん……どう思う?碧依。」
「……できないというか、やらない方が良いだろうね。」
「やっぱ、そうか。私達が出てる間に、例のアレは終了しちゃったんだね。」
「例のアレ?」
この勇輝の疑問に、紫明が答える。
「あ、えーっとね、一昨日ぐらいまで、バーニアタムの新規メンバーオーディションっていうのをやってたんだ。」
「新しいメンバーが加入する行事みたいなものですか?」
「うん。大体のクランというか、私達も3年前ぐらいまでは、いつでも加入のための試験を受けられるようになってたんだけど、バーニアタムは今年から数年に1回のオーディションで、新規メンバーを入れる方式にしたの。」
「へぇ〜……ってことは、僕は魔現師になるのに、あと数年は待つ必要があると。」
「ごめんだけど、そうなるね。私個人としては勇輝君を入れたいんだけど、例外を作っちゃうとアレじゃん。」
「はい。次のオーディションまでに、試験に受かれるように頑張ります!」
「笑、勇輝。他と圧倒的差をつけて受かれるように、一緒に頑張ろう。」
「はい!」
そんな未良と勇輝のやり取りを、3人は暖かく見守るのだった。
to be continued
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