第9話「バーニアタム到着 4」
つい先日、バーニアタムの新規メンバーオーディションが終了してしまい、今すぐには魔現師になることができないと言われた勇輝。
それでも諦めることなく、次のオーディションに向けて、力をつけようと勇輝は決心した。
そして、未良はこれから勇輝がお世話になるバーニアタムについて、勇輝に説明するために、キャプテンである紫明玲夢に、必要なことを聞いていく。
「玲夢。寮の部屋は使っていい?」
「良いよ。男性寮の方は全然空いてるからね。」
「良かった。勇輝、あっちの…大演習場の向こうに見える建物が、私達が住んでる寮で、これから勇輝も住むんだよ。」
「分かりました。というか、さっき紫明さんは、男性寮の方は空いてると言いましたけど、それは女性寮の方は埋まっている…つまり、ここって女性の魔現師の方が多いんですか?」
「お、正解。勇輝君が考えた通り、バーニアタムには女性メンバーの方が多いよ。というか、ほとんどが女性メンバーだね。」
という紫明の答えに、勇輝は少し不安な表情になる。
「え、マジですか…」
「うん笑。でも、男性メンバーも数は少ないけどいるから安心して。」
「はい。」
「いや〜うちは、キャプテンが女性なこともあって、入ってくるのが女性が多いんだよ。」
「実際、オーディション形式にした今回も、女性が12人で、男性が2人。ちなみに、そのうち1人は、"支援魔現師"。」
「え、支援魔現師が入ったの?」
槻谷の言葉に、刀花が驚く。
「うん。錬地が喜んでたよ。」
「ずっとワンオペだったからね〜その新人さんには頑張って欲しいな〜」
「あの〜支援魔現師って、なんですか?」
2人の会話を聞き、勇輝が質問する。
「支援魔現師っていうのはね、魔物と戦ったりとか、探索をしたりとか、戦いをメインとしている私達…"戦闘魔現師"を支援してくれる魔現師のことで、例えば、戦闘魔現師が手に入れた物の鑑定をする人や、依頼をしに来た人の対応をする人、私達が使う武器を作ったり整備したりする人、とかがいるよ。」
「支援魔現師がいないと、クランは成り立たないから、とても大切な存在なんだ。」
「そうですよね。刀花さんと槻谷さんの話を聞く限り、支援魔現師さんがいないと、クランはまともに動けなさそうですから。」
「うんうん笑。勇輝もすぐに会うことになるよ。」
「いつもなら、この部屋にもよくいるんだけど、今日までは、クランに舞い込む色々な仕事を管理してくれている支援魔現師の"
「笑、道理で机の上に、書類が積み重なってるわけだ。」
未良が、紫明のデスクの上を見ながら言った。
「ほんと、早く明日になって欲しいよ。」
「いや、渚紗ちゃんがいないとはいえ、たった1日でここまでなる?笑」
「1日じゃなくて、3日ね!」
「3日でもだよ。もう何十年もキャプテンをやってるのに笑」
「うわぁ、またバカにして〜」
揶揄う未良に、再び悔しそうな表情を浮かべる紫明を、勇輝は見る。
何十年もキャプテンをやってる…か。
紫明さんは、耳が少し長くてとんがってるから、おそらく、長命種の森人族だと思うんだけど…
実際、どれぐらい生きてるんだろう。
「笑、今、勇輝が考えていることを当ててあげようか。」
そんな勇輝を見て、刀花が笑いながら言う。
「え?」
「玲夢はどのくらい生きてるんだろう…でしょ?笑」
「っ!……はい。」
「そうなの?笑、勇輝君。」
「あ〜獣人族を見るのが初めてって言ってたし、森人族を見るのも初めてか。」
「はい、初めてです。」
「そっか笑。どう?初めて森人族を見た感想は。」
美しい笑顔で、紫明が勇輝を見る。
「えっと……ものすごく綺麗です。」
「あら笑、ありがとう。」
「あと、耳がちょっと違うだけで、見た目はそこまで人族と変わらないんだな、と思いました。」
「まぁ、他の種族と比べたら、森人族は人族に外見が似てる方かもね。さすがに1番似てるのは、小人族だろうけど。」
「小人族…」
「笑、これで、獣人族と森人族の説明は完了で、他の種族の話は、実際にその種族のメンバーがいる時にでも、改めて説明するよ。」
「お願いします!」
「ところで、玲夢の歳は聞かなくて良いの?笑」
ニヤニヤとした表情に変わった未良が、勇輝をそう唆す。
「ちょっと。聞かれても、絶対に答えないからね!」
「え〜〜知りたいよね?笑、勇輝。」
「ま、まぁ…」
「無理無理!」
「ってか、玲夢の場合、自分の歳を正確には覚えてないよ。というより、森人族とかの長命種は、自分の年齢にあんまり興味がないから、正確に覚えている人の方が少ない。」
「さすが碧依!ナイス!!そうそう、私は自分の歳を覚えてないから、答えられませ〜ん!」
「また子供みたいな言い訳して笑」
「なっ……未良はもっと歳上を敬いなさい!」
「へぇ〜そんなこと言うんだ〜でも、しょうがないよね。玲夢は私の3倍以上は生きてるんだから笑」
「3倍…」
「びっくりでしょ?笑。このおば様は、もう100年以上生きていらっしゃるのよ。ほんと凄すぎます、玲夢様。」
「く、くぅ……もう、その扱い嫌だから止めて!」
「あ、そう?笑、ならそうする。」
「この〜」
「はぁ……」
と、ニヤニヤしている未良に、紫明が弄ばれている様子を、槻谷がため息をついている中、勇輝が唖然としながら見ていると…
「あ、演習場に人が来たな。誰だろう。」
ソファから、窓の外を眺めていた刀花がそう言った。
「ん?………あぁ、新人の子達だね。ってことは……うん、ほら、連火と優愛が来た。今、その2人が全体の教育係についてるんだ。」
同じように窓の外を見た槻谷が答える。
「そうなんだ。」
「……演習場に来たってことはつまり、これから模擬戦をするのかな?」
何かを思いついたような表情をした未良が聞く。
「するんじゃないかな。みんな防具つけてるし、武器も持ってるから。どうなの?キャップ。」
「えーーっと……確か、朝から連火が、実力を見て個別で教育係をつけたいとか何とか言ってたような…」
「はぁ……そういうことは、ちゃんとメモに残しといてよ。後から渚紗ちゃんが、対応に追われることになるんだから。」
「もちろん!」
「実力を見るってことなら、模擬戦はやるか……よし!」
4人の会話を呆然と聞いていた勇輝の方を、未良は振り向く。
「勇輝!演習場に戻るよ!」
「え?見に行くんですか?!」
「そう!魔力の扱い方を身につけるための第一歩…いや、立派な魔現師になるための第一歩として、実際に魔現師が魔力を扱っている様子や、戦っている様子を見てみよう!勇輝も見たいでしょ?」
「はい!見たいです!」
「なら、早速、レッツゴー!」
そう言って、未良は立ち上がり、扉の方へ。
「じゃあ、私も〜」
「玲夢は仕事。」
「え〜」
「…私も手伝うから。」
「やった〜〜碧依〜」
「はぁ……」
「笑、碧依、よろしく。」
「うん。任せといて。刀花はそっちをお願い。」
「はーい笑」
紫明を槻谷に任せ、刀花も扉の方に向かう。
「あ、勇輝君。」
扉から出ようとした勇輝を、紫明が呼び止める。
「君は、これからバーニアタムの魔現師研修生として扱うから、よろしく!」
「?、研修…」
「正式な魔現師じゃないけど、魔現師の元で、魔現師になるために修練を積んでいる人ってこと。」
「あぁ、なるほどね。ま、詳しいことは、渚紗ちゃんがいる時に聞くとして、今はとにかく演習場に行くよ!」
グイッ
早く演習場に行こうとする未良が、勇輝の手を引っ張り始める。
「え、あ、分かりました!ありがとうございます!」
「笑、またね〜」
「また。」
「笑、未良はせっかちだな〜〜じゃ、仕事頑張って。」
こうして、バーニアタムの魔現師研修生となった勇輝は、未良と刀花と共にキャプテン室を出て、模擬戦を見に演習場へと走るのだった。
to be continued
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