第7話「バーニアタム到着 2」
ズドーーン!!
周りに削れた石のタイルの破片を飛ばしつつ、大きな音を開けた空間に響かせながら、勇輝、未良、刀花の3人を背に乗せたドラが、着地する。
「よし、とうちゃ〜く。」
「勇輝、降りるよ。」
「は、はい。」
未良が先に降り、続けて勇輝も、刀花に手を引っ張られながら、帝都の地に足をついた。
「それじゃあ、ありがとね、ドラ。」
「おう。」
ドラの周りに黒い煙が広がり始める。
「勇輝、またな。」
黒い煙に体が覆われていく中で、ドラは優しい眼差しを勇輝に向けながらそう言った。
「ドラさん、ありがとうございました。」
「笑、あぁ。」
立派な牙を見せて笑ったところで、ドラの姿は煙の中に消えた。
「笑、勇輝は随分とドラに気に入られたみたいだね。」
「まぁ、ドラの場合、うちのクランの男メンバーみんなを気に入ってるから。」
「やっぱ、ドラも男だからかな?」
「そうなんじゃない?気が合うんでしょ。」
2人がこうやって話している中で、勇輝は自分が立っている場所を見回す。
「あの〜ここって…」
「ん?ここは、私達が所属するクランの本拠地だよ。ま、もっと正確に言うなら、その中の大演習場。」
勇輝の疑問に未良が答える。
「大演習場…」
今、勇輝達は、地面には石のタイルが敷き詰められ、周りは段々になっているベンチに囲まれている場所に立っていた。
「ここでは、普段、みんなが戦闘訓練をしてたり、模擬戦をしてたりするの。まぁ、今はたまたま誰もいないみたいだけど。」
「へぇ〜」
「いずれ、勇輝もここで色々とやることがあると思う。ってか、ここで特訓するつもりだから。」
「はい。」
「一緒に頑張るよ。」
「はい!」
と、刀花が暖かい目で見守る中、未良が勇輝に気合いを入れさせていると…
スタッ
「ん?」
背後から何か音が聞こえ、勇輝は後ろを振り返る。
するとそこには、黒色のトップスとパンツを着たカッコいいオーラダダ漏れの……
頭に黒い猫耳のある人が立っていた。
「あ、碧依。ただいま。」
同じくその人物を視界に入れた未良は、笑顔でそう言う。
「おかえり。未良、刀花。」
それに対して、碧依、と呼ばれたその人物は固い表情のまま答えた。
いや、どこか怒っているようにも感じられる。
「ただいま〜」
「私達が出てる間に変わりはなかった?」
「特には。ってか、言うても1週間ぐらいなんだから、そう変わらないでしょ。」
「それもそうだね笑」
「で、早速、報告含めて色々と話してもらいたい事があるんだけど……まず、その子はなに?」
未良と刀花の後ろにいる勇輝を見ながら言う。
「勇輝、挨拶して。」
「は、はい。阿閉勇輝です!よろしくお願いします。」
「あ、うん。よろしく。」
「色々とあって、これから私が面倒を見ることになったから。」
「うん。その色々の部分をちゃんと聞きたいんだ。それに、少なくとも帝都に初めて来る人は、ちゃんと門から入らせろっていう注意も、"騎士団"から受けたんだが?」
「さすがに仕事が早いね笑」
「だね〜」
「だね〜じゃないよ、全く……」
「まぁまぁ、そんなに怒ってると疲れるよ。リラックス、リラックス。」
「そうそう、シワが増えるよ。」
「じゃあ、怒らせるようなことをするな!」
未良と刀花、黒い猫耳を持つ人物が言い争っている中、1人、わけも分からず立っている勇輝は…
「ジーーー」
未だに性別の分からない目の前の人物の頭についている、黒い猫耳を眺めていた。
「…で、君は何をそんなにじっと見てるの。何か変なものでもついてる?」
それに気づいた、黒い猫耳の人が、未良と刀花から、勇輝の方に視線をずらし、尋ねる。
「あ、いえ、すみません。初めて見まして、その……獣人族の方を。ほんとすみません。」
「いや、別に良いんだけどさ。あんまりそうやって、じっと見てられると、こっちもどうしたら良いか分かんなくなるから。」
「なんか適当にポーズとか取ってみたら?笑」
ふざけたように、刀花が言う。
「嫌だよ。」
「ってか、碧依の方は、まだ自己紹介してないじゃん。勇輝だけに自己紹介させておいて。」
「うん、それもそうだね。」
未良に言われ、その黒猫耳の人は、勇輝の方をしっかりと向く。
「さっき君が言ったように、獣人族……もっと詳しく言うと"猫人族"で、"バーニアタム"所属の魔現師、"
「は、はい、よろしくお願いします!」
緊張しながらも、勇輝は元気に答えた。
「じゃあ、今から質問タイムということで、勇輝は碧依に気になることを自由に聞いてもらって、碧依はちゃんとそれに答えること。OK?」
「そんなに急にやるもんなの?まぁ、良いんだけどさ。」
「よし、碧依の了承ももらったことだし。さぁ、勇輝、どうぞ。」
笑顔の未良から、突然の質問タイムを要求され、驚く勇輝であったが、先程の槻谷の自己紹介に気になる部分がいくつかあったため、それを尋ね始めた。
「ではあの、さっき槻谷さんは、獣人族でも、詳しく言うと猫人族、と仰ったんですが、獣人族の中にも、色々な種族がいるってことなんですか?」
「うん。いるよ。多分、獣人族を知ってるってことは、獣人族が動物の特徴の一部を持った種族だってことは知ってると思うんだけど、その中でも、持ってる動物の特徴で種族が分けられるんだ。」
「なるほど…」
「あ、ちなみに碧依には、猫のしっぽもあるよ。ほら、後ろ向いて。」
「…はぁ、分かったよ。」
少し恥ずかしそうにしながら、未良の言う通りに槻谷が後ろを向くと、臀部に黒いしっぽが丸まっているのが確認できる。
「あるでしょ?勇輝。」
「はい。」
わざわざしっぽを見せるために後ろを向くという行為が、相当恥ずかしかったのか、その勇輝の返事を聞くや否や、すぐに真正面に向き直った。
「…猫人族の他にも、"犬人族"や"兎人族"、"熊人族"とか、たくさんいる。」
「そうなんですね。」
「次の質問は?」
そう槻谷に言われ、準備していた質問を勇輝は投げかける。
「はい、バーニアタムって何ですか?」
この質問を勇輝がした瞬間に、それを聞いた3人の頭に空白が通り過ぎた。
「ん?」
「あ…」
「そうか…」
3人のリアクションに、勇輝も戸惑う。
「えっと?なんか、聞いちゃマズいことでしたか?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど……どういうことなの?」
「完全に言い忘れてた笑」
「確かに、クランってだけ言って、名前まで言ってなかったね。」
槻谷に聞かれ、未良と刀花は笑いながら、忘れていた、と言う。
「はぁ………面倒を見るって言って、ここに連れてきたんだから、バーニアタムで面倒を見るってことなんでしょ?それなのに、クラン名すら教えないなんて。」
「クラン名?」
「そう。バーニアタムっていうのは、私達が所属しているクランの名前。」
「あ、そうだったんですね。バーニアタム……カッコいい。」
「笑、そうでしょ?」
「はい!」
「…ほんと、なんか、こっちこそごめんね。この2人からろくに説明も受けることができないまま、連れて来られたんでしょ?」
身内のバカみたいなミスを知り、槻谷は勇輝に哀れみと謝意の視線を向ける。
「い、いえ、そんな…」
「元々、玲夢への報告ついでに、色々と説明しようと思ってたんだよ。あ、玲夢っていうのは、うちのキャプテン。キャプテンはクランで1番偉い人。」
「キャプテン…」
「なら、早く行こう。勇輝君も不安だろうし、私も未良達の報告や勇輝君のことを聞きたいし。」
「それもそうだね。勇輝、移動しよう。」
「分かりました。」
勇輝の返事を聞き、未良、刀花、槻谷の3人は歩き始め、勇輝もそれについていくのだった。
to be continued
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