第6話「バーニアタム到着 1」
ちょうど良い日差しが降り注ぎ、ポカポカとした暖かい空気が流れている大地。
その遥か上空を、勇輝達は移動する。
「どう?勇輝。意外と楽でしょ。」
黒い鱗の上に立っている未良が、後ろを振り返りながら尋ねる。
「はい。思ってたよりも快適です。」
「笑、でしょ?」
勇輝が言う通り、竜の背の上は程よい気温で、気持ち良いぐらいの風が吹いており、人が快適に過ごせるような空間であった。
「良かったね〜ドラ。勇輝が快適だって。」
「そうか笑」
「あれ、私達が前に言った時より嬉しそうじゃない?」
勇輝の後ろに立つ刀花が、笑いながら、ダークネスドラゴンのドラに言う。
「いつの話をしてるんだ。お前らが初めて乗った時なんて、もうかなり前だろ。」
「別に私は、初めて乗った時のことを言ってるんじゃないんだけどな笑」
「う〜ん、初めてドラに乗ったのは、私がドラを仲間にした時だから………10年前ぐらい?」
「え、10年前?」
「ん?うん。国から出された依頼で"魔大陸"の調査に行った時に、ドラを見つけてね。色々とあって仲間になったんだ。ね?ドラ。」
「おい、色々とであやふやにするなよ笑。気をつけろ、勇輝。コイツはこんなニコニコしてる割には、めちゃくちゃ凶暴だからな。」
「全く、人聞きが悪いな〜ドラが暴れ回ってたから、ちょっとお仕置しただけじゃん。」
「ちょっとお仕置?何言ってんだ。俺の翼を2本とも折りやがったくせして。」
「それは、ドラが飛んで逃げようとしたからじゃん。」
「なんだと?逃げてねぇよ!」
「私にとっては、逃げてるようにしか見えなかったけど?」
「笑、2人とも言い争わない。で、勇輝は何に驚いたのかな?」
「あ、えっと……ドラさんを仲間にしたのが思ってたよりも前だったからです。」
「思ってたよりもってことは、もっと最近だと思ってたの?」
と、刀花が言うと、ドラが笑いながら口を開いた。
「というより、お前らの歳が予想以上にいってるって思ったんじゃないか?笑」
この言葉を聞いた瞬間に、未良と刀花の表情が変わった。
「女性に向かって、そういうこと言うのは失礼だよ、ドラ。」
「クランに着いたら、鱗剥ぐから覚悟しといてね笑」
「ほら、勇輝。分かっただろ?コイツらの凶暴さが。」
「はぁ……しばらくドラは黙ってて。さもないと…」
「……怖っわ…はいはい、分かったよ。」
こうして、ドラが静かになったところで、勇輝への説明が始まった。
「ドラの言い方はちょっと気に食わないけど、実際、勇輝は私達の歳が分からないでしょ?」
「ま、まぁ…」
「ならさ、いくつぐらいに見える?」
「そうですね………20歳半ば…にいかないぐらいじゃないですか?」
「おぉ、嬉しいね〜」
「笑、だね。」
「え、全然、違うんですか?」
「別に、全然って言うほどでもないけど、私達はもう30歳後半に差し掛かるぐらいの歳だよ。」
「だいたい、17、18ぐらいの時に魔現師になって、そこから18年は仕事してるからね。」
「え?!」
勇輝は、目の前の未良と刀花を4度見ぐらいして、その若い外見と聞いた年齢のギャップに驚く。
「昨日も言ったけど、全身に内魔力を満たしている時間が長いほど、成長が早くなるし、体は若い状態を保つようになるの。だから、魔現師として仕事をして、内魔力をよく使ってる私達……というか、魔現師はみんな、年齢の割に若く見えるんだ。」
「あ〜確かに、そうなりますよね。つまり、魔現師に対しては、あまり見た目の年齢はあてにならないと。」
「うん。ってか、それもあって魔現師はあんまり歳を気にしないかな。特に、ここ"
「なるほど…」
「ちなみに、勇輝はこの皇帝国については、どのぐらい知ってる?」
刀花が聞く。
「えーっと、"
「うんうん。じゃあ、人族以外の種族も住んでるってことは?初耳だった?」
「はい、初耳でした。それで、この国には何の種族がいるんですか?」
「世界で確認されている全ての種族がいるよ。なんなら、私達のクランには、その全種族が少なくとも1人以上は所属してるし。」
「へぇ〜」
「笑、ではでは、ここで問題です!この世界にはいくつの種族が存在しているでしょう!」
勇輝が関心を持ったような表情をしたのを見て、刀花が楽しそうに問題を出した。
「う〜ん、人族以外だと、"獣人族"と"森人族"、あと"鬼人族"がいるってことは、育恵おばさんとか行商人の箱田おじさんから聞いたことがあります。」
「なら、その3つの種族がどんな種族かは、説明できる?」
「獣人族は、動物の特徴を一部に持つ種族で、森人族は長命種で耳が長くてとんがってる種族、あと鬼人族は確か…角を持ってて、力が強い種族…ですかね。」
「うん、大体正解。」
「他にはどんな種族がいるんですか?」
「えっとね…」
「あ、待って刀花。」
勇輝の質問に答えようとした刀花を、未良は止める。
「ん?」
「もうすぐで帝都に着くし、どうせなら私達の仲間と挨拶する時に、それの説明をしようよ。」
「お、良いね。そうしよう。」
「分かりました。お願いします。」
「笑、うん。」
と、3人が会話を終えたところで…
「おい、もう見えてくるぞ。」
ずっと黙らされていたドラが口を開く。
その瞬間、ドラは降下し、白い雲を突っ切る。
すると、眼下に広大な大地とその中央に円形の塀に囲まれた帝都が見えた。
「ほら、勇輝。あれが帝都だよ。」
「うわぁ……おっきい……のか?」
「笑、こんな上空からじゃ、大きさははっきりと分からないよね。」
「でも、建物が多いのは分かります。」
「笑、そっか。」
「未良、いつもの場所に降りれば良いのか?」
「うん。」
「分かった。」
そうして、ドラはどんどん帝都に向かって降下していき…
「っ!!」
突然、内魔素を揺らされたような…ゾワゾワとした感覚に襲われ、勇輝は腰を抜かしそうになる。
「あぁ、そっか。初めて帝都に来る人は、ゾワゾワって感じになるんだった。ごめん、伝え忘れてた。」
「いえ……大丈夫なんですよね?」
「単純にそれは、どこから帝都に入ったのかっていうのを確認するためのものだから、大丈夫だよ。」
「ってことは、僕が帝都にいるってことが、今さっきので誰かに分かったってことですか?天能の力ですか?」
「笑、天能の力っていうのは正解。で、勇輝が帝都にいるってことは分かってないよ。ただ、誰か1人が帝都に入ってきたってことを認識しただけ。」
「不法侵入でね笑」
「え…」
笑いながらの刀花の言葉に、勇輝は絶句する。
「笑、本当なら……あのほら、人が並んでるところがあるでしょ?」
刀花が指を指した方向を見る。
「あそこにある門から、普通の人は帝都に入るから、初めて帝都に来たって人は、基本的にあの門のところで、今さっきのゾワゾワを感じるわけで、そうするとその天能を使っている人は、いつぐらいに何人の人があの門から入ったかが分かるの。」
「ちなみに2回目以降は、そういう感覚にはならないけど、一応どこから入ったかは確認されてるよ。」
「じゃあ、僕はあの門以外から帝都に入ったから、その天能を使っている人からは不法侵入者だって思われる?………ヤバくないですか?普通に。」
「笑、多分、なんにもならない。あったとしても、玲夢がちょっと注意されるだけだろうから。」
「全く……アイツが可哀想だ。」
笑いながら言う未良に、帝都の説明をしている2人とそれを聞く勇輝に気遣って、少しの間、空に留まっていたドラはため息をつくように呟く。
「そ、そうですか…」
「それに、ドラが戻ってきたことは、外を歩いてる誰もが確認するわけで、勇輝を確認した位置と時間から、その背中に乗って帝都に入ってきたと考えられる…それなら、私達の関係者だ!って、すぐに納得すると思うよ。」
「じゃあ、良かったです。安心しました。」
もしかしたら帝都に来てそうそう、不法侵入で帝都の兵士に捕まるのでは、と思いビビり散らかしていた勇輝だったが、未良と刀花の説明で一安心した。
「じゃ、もう降りるぞ。」
「よろしく。」
その未良の言葉で、ドラは3人を背中に乗せたまま、帝都の北側にある大きな建物に向かって降下して行ったのだった。
to be continued
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