第2話「旅立ち 2」
一歩前に出て、勇輝達に自己紹介をした女性…帝都の魔現師である伊従未良は、まずこの村では見ることのないような、綺麗な衣服…いや、装備をつけており、両手で、禍々しい鎖が巻かれた物を抱えていた。
「帝都から?!」
「……話に聞く、近くの遺跡を調査しに来たという魔現師の人かい?」
「は、はい。」
「っ!!…」
「それで……勇輝に開けて欲しいのは…まさか、その禍々しい物体じゃ……」
「そうです!お願いします!」
「…」
必死に頭を下げる未良だが、育恵はどうするべきかという悩んだ表情になる。
「…なんで、開けて欲しいんですか?」
しかし、育恵の後ろにいた勇輝が、未良にそう聞いた。
すると、未良は焦った表情から悲しそうな表情へと変わり、手に抱える禍々しい鎖に巻かれた物を優しく撫でる。
「…この子ね、私の大事な仲間なの。」
「そ、その鎖が?」
「違う。この子はね、私の不注意で、この"魔道具"に縛られちゃったんだ。」
「………育恵おばさん?」
どうしたら良い、という視線を向ける勇輝に対し、育恵は…
「…魔現師がわざわざ村人に頼るってことは、自分達じゃどうしようもなかったんだろう?」
「はい。一緒に来ていた仲間も、お手上げ状態で、どうしようかと迷ってたところ、ここの村を見つけて。村長さんにここに鍵を開ける系の天能持ちがいるという話を聞き、もしかしたら、って思って案内してもらったんです。」
「俺は、たまたま村長と一緒にいてな。案内を頼まれたんだ。」
「魔現師達がお手上げなんだろう?だったら、勇輝がどうにかできるわけが…」
「しかし、やってみる価値はあるだろ。一応、勇輝は、これまでに開けられなかったものはないんだし。」
「…」
「お願いします!」
「……育恵おばさん、僕、やってみる。」
お前ならできると言わんばかりの暖かい欣治の表情と、懇願する未良の表情を見た勇輝は、決意を持ってそう言った。
「……はぁ……もし、それを勇輝が開けた場合、勇輝に何かしらの影響が出る可能性は?」
「ないとは言い切れませんが、その時は必ず私が守ります。」
真っ直ぐに、育恵の目を見て答える。
「………分かった。勇輝、気をつけて。」
「うん!」
育恵の渋々ながらの許可をもらい、勇輝は未良のそばに近づき、禍々しい鎖が巻かれた物体に、手をかざす。
「…」
「ふぅ……『解錠』。」
何が起こってもいいようにと構える未良の前で、勇輝はそう言って、"現象を引き起こした"。
『解錠』という現象を。
すると、その物体が白く光りだした。
「なっ!」
「っ!!!」
「勇輝!!」
そして、その白い光が収まった瞬間、鎖が砕け、元気の良い鳴き声が響いた。
「クルッポー!!!」
鎖から解放され、未良の手から離れたその鳴き声の主、美しい空色の鳥は、自由を味わうように辺りを飛び回った後、未良の肩に留まった。
「やった!!"ピージョ"!!」
「クルッポ〜」
「せ、成功なのかな…」
「ありがとう!勇輝君!ほんとに助かった!」
「クルッポ!」
未良がお礼を言うと同時に、肩に留まる鳥も、鳴きながら頭を下げた。
「す、すごい…」
「でしょ?笑。この子、ものすごく頭が良いんだ。」
「クル!」
「笑、胸張ってる。ほんとに人の言葉が分かるんだ。」
「触ってみる?」
「良い……んですか?」
普段とは違う出来事の連続に、ちょっとした興奮状態の勇輝であったが、ここで、鳥に対する好奇心は保ちつつも、冷静さを取り戻し、村外の人、しかも魔現師に対しては敬語にすべきだ、という小さい頃からの、育恵の教えの成果が出る。
「笑、良いよ。触っても。」
「クルッポ〜」
そう言いながら、未良は勇輝が触りやすいようにと、肩に留まる鳥を勇輝に近づける。
「し、失礼します……」
ナデナデ
「クルル〜」
「この子…名前はピージョって言うんだけど、すごく嬉しいみたい。」
「ピージョ……良かった笑」
「こうやって、ピージョが嬉しそうにしてられるのも、勇輝君のおかげだよ。本当にありがとう。」
「…いえ、お役に立てて、良かったです笑」
「笑……よし、この子が復活したってことを知らせないと。」
「え?」
「ちょっと、ナデナデタイムは終了で良いかな?」
「あ、はい。」
「クルッポ〜」
少し、名残惜しそうにしながらも、勇輝はピージョから手を離し、未良はピージョを見る。
「ピージョ、鎖から解放されたことを報告しつつ、刀花をこっちに連れて来て。」
「クル!」
「笑、うん。さぁ、行け!」
「クルッポーー!!」
未良の言葉を聞き終わった後、ピージョは羽を広げて、未良の肩から飛び上がり、空をものすごい速度で進んで行った。
「1時間もすれば、戻ってくるかな〜」
「あ、あの…」
「ん?どうしたの?」
「人の言葉が分かるとはいえ、あんなことを鳥…ピージョにできるのかな、って思って…」
「あぁ笑、楽勝だよ、ピージョにとっては。だって…」
「あの鳥、魔物だろ?」
しばらくの間、欣治と共に、唖然としていた育恵が、そう言った。
「ま、魔物…」
昔から、魔物が怖いものであると聞かされていた勇輝は、先程自分が触っていた可愛らしい鳥が、その魔物であるということに、戸惑いを隠せない。
「はい、魔物です。」
「やっぱり、そうだよな。普通の鳥が、人の言葉を理解できるわけがないもんな。」
「危険じゃないのかい?」
「もちろん、魔物は危険です。だから、勇輝君が今、抱いているその戸惑いは正解で、必要なものだよ。」
「…」
「でも、あの子は別です。私の仲間ですから。」
「…アンタの天能かい?」
「はい。私は魔物を仲間にできるんです。」
「へぇ〜そりゃすごいな。」
「いえ笑……ってことだから勇輝君。これからも、あの子と仲良くしてあげてね。」
そう笑いかける未良。
「は、はい!」
「笑、ありがと。」
「…」
「…あ、その、伊従さんはこれから、ピージョだっけか?あのお仲間が戻ってくるまでは、暇になるんだろ?」
「そうなりますね。」
「だったら……勇輝。」
「なに?」
「家でゆっくりしてもらったらどうだ?」
「え?」
「伊従さんも疲れてるだろうし、何より、勇輝は話を聞きたいんじゃないのか?色々と。」
「色々って…」
「だって、こんな機会滅多にないぞ。帝都から来た魔現師さんの話を聞けるなんて。この際だから、色々と話をしてもらえって笑。良いだろ?伊従さんも。」
「構いませんよ。何より、勇輝君は恩人ですから笑」
「ほら、話を聞きたくないのか?笑」
「…」
「お前、小さい頃は、魔現師に興味津々だったんだし。今も興味はあるだろ。」
「…チラッ」
欣治の言葉を受けて、勇輝は少し離れたところに立つ、育恵の方をチラッと見る。
「……自分に素直になりなさい。」
「…じゃ、じゃあ、お願いします。」
「分かった笑」
「それでは、ど、どうぞ。」
「笑、はーい。」
緊張しながらも、勇輝は未良を家に招き入れた。
「色々とびっくりだったな。」
「……ほんとだよ。」
「マズかったか?」
「………いや。」
「…」
「これを機に、勇輝にはやりたいことをやってもらえるようになったらな、とは思うよ。」
「笑、そうか。」
「……アンタんとこの畑の水やりを手伝おうかね。」
「そりゃあ、ありがたい笑」
こうして、2人は勇輝の家から離れ、その家の中では…
「こちらに…」
「うん、ありがとう。」
魔現師のことや帝都のことなど、普段じゃ聞けないような話を聞けることにワクワクする勇輝と、その勇輝の様子を面白い、そして少し可愛いと思っている未良が、向かい合って席に座る。
「…」
「…」
「えっと…」
ワクワクはしているものの、いざ質問を投げかけようとすると、何から聞けばいいのか、何と聞けばいいのかを思いつかず、勇輝は慌てる。
その様子を見て、未良は優しく微笑みながら、口を開いた。
「笑、なら、交互に質問してみよっか。」
「え?」
「私から質問するね。」
「あ、は、はい。」
「君の名前は?」
「あ、阿閉勇輝です。」
「阿閉勇輝君か〜〜良い名前だね。」
「ありがとうございます。」
「苗字ももちろんだけど、下の名前もカッコいい。」
「そうですか?…僕としては、苗字に対して負けてるというかなんというか…」
「全然、そんなことはないと思うよ。まぁ、苗字が"勇者"と同じっていうプレッシャーみたいなのは、私じゃ分からないけど、私からすれば、勇輝って名前も、阿閉っていう苗字以上にカッコいい。」
「そうですか……嬉しいです笑」
「笑、じゃあ、勇輝君の質問は?」
「えっと、魔現師っていうのは、どういうものなんですか?」
未良の勇輝の緊張をほぐす作戦が見事に成功したことで、勇輝は考えていた質問をスムーズに投げかけることができた。
「魔現師がどういうものか、か〜〜逆に、勇輝君はどういうものって思ってる?」
「う〜ん、天能を使って、色々な仕事をこなす人…ですかね。」
「ま、定義的にはそれで正解かな。」
「定義的には?」
「うん。だって、それだったら、この村でも天能を使って畑作業をする人……私が来た時にチラッと見えたけど、あの育恵おばさん?は、天能を使って、畑に水撒きしてたでしょ?」
「はい。」
「なら、天能を使って畑仕事をしている、育恵おばさんも魔現師ってことにならない?」
「あ、確かに…」
「だから、勇輝君にとっての魔現師は、そうじゃない。でも、魔現師という言葉の定義としては間違ってない。まぁ、正確に言えば、『"魔力"を使って現象を引き起こす人』なんだけど。」
「魔力を使って…」
「そう。それで、勇輝君が思っている魔現師、一般的に人々が魔現師という職業で指す人は、『"クラン"に所属する人』だね。」
「クラン?」
「クランっていうのは、魔現師のチームみたいな感じ。クランには多くの魔現師が所属してて、そのクランに届いた仕事を、魔現師がやるんだ。」
「クランに仕事が届くんですか?」
「そう。基本的には、魔現師個人に仕事が届くことはないの。魔現師に仕事を頼みたい人は、みんなクランに仕事を依頼しないといけないんだ。」
「じゃあ、クランにはどんな仕事が届くんですか?」
「半分は魔物の討伐で、あとは護衛だったり、雑用だったり、たまに探索も依頼されるかな。」
「探索ってなんですか?」
「探索はね〜〜この世界には、まだ人が行けてないところがあるんだ。そこに行って、何があるのか、どんな魔物がいるのか、というのを調べるのが探索。」
「へぇ〜」
「でも、人が行けてないところっていうのは、多くの場合、強い魔物がいるから、実質、魔物の討伐の依頼と同じだね。」
「魔物……って、どんなものなんですか?」
「…勇輝君は魔物は怖いものだって、教えられてきたんだよね?」
「はい…」
「さっきも言ったけど、それは正解。魔物は強いし無限に出てくるし、人を食べる。だから怖い存在なのは間違いないんだ。」
「…」
「と、説明したところで、魔物がなんなのか、なんだけど、魔物っていうのは、"魔素器官"を持つ生物のこと。」
「魔素器官というのは…」
「魔素器官、魔石って言ったりもするんだけど、えっと……これを説明するには、"魔素"のことから話す必要が…」
「お願いします!」
「笑、長くなるけど?」
「構いません!」
「分かった笑。じゃあまずは…」
そうして、未良による魔素に関する説明が始まったのだった。
to be continued
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