『解錠』の魔現師は何が為に戦う?

ドラると

第一部

第1話 旅立ち 1

暖かい空気が、建物のそばに生える木々を包み、空に見える太陽から放たれる程よい日差しが、土の道を照らすある日の朝。



帝都に住む人々からすれば、存在すら認識されていないような、ド田舎の村…"平和居村へないむら"で、背丈に対して少し大きいぐらいの籠を背負った子供が、村の中心にある広場に向かって歩いていた。



この物語の主人公"阿閉勇輝あべ ゆうき"は、自分の家の畑で育てた青色の芋を、籠に入れて運ぶ。




「あ、おはよ、欣治おじさん。」



「おう、勇輝。今週のもたくさんだな!」



「うん。これで、新しい服を買わないとなんだ。」



「確かに……もうボロいもんな、その服。」




近所に住む"木村欣治きむら きんじ"は、勇輝が着ている、所々に縫い跡がある服を見てそう言う。




「これを買ったのは、かなり前だからね。育恵おばさんに直してもらったりはしてたけど、さすがに限界かなって思って。」



「そうだな。早く箱田のとこで、良いものを買って来い。あと少ししたら、他のみんなも集まってきて、争奪戦になるだろうから笑」



「うん。」



「あ、育恵のばあさんは今どこにいる?ちょっと水やりを頼みたくてよ。」



「育恵おばさんなら、花に水あげてた。」



「分かった。ありがとな。」



「ううん、いってきます。」




そう言って、勇輝は再び歩き出し…




「箱田おじさん、おはよう。」



「あ、勇輝君、おはよう。相変わらず早いね笑」




広場に到着し、そこにいた、1週間に1回、平和居村に来て、物の売買をしてくれる若い行商人の"箱田孝路はこた こうじ"と挨拶を交わす。




「だって、遅くなったら、みんな来るじゃん。」



「それもそうだね笑。さ、今日はどれぐらい持ってきてくれたのかな。勇輝君のところのゴロイモはすごく品質が良いから、たくさん持ってきてくれてると、嬉しいんだけど。」



「う〜ん、先週よりはちょっと多いって感じかな……っと……はい。」




背負っていた籠を下ろして、箱田に運んで来た青色の芋…ゴロイモを見せる。




「おぉ……今週のも良さげだ。重さを量るから、ちょっと待ってね〜」




箱田は、籠の中から取り出したゴロイモを、麻袋の中に入れていく。



そして…




「これで全部か……あ、見てよこれ。新調したんだ。」



「え?」



「よいしょっと…」




勇輝の方を笑顔で見ながら、何も無い空間から幅の広い箱を取り出した。




「前の秤がさ、少し前に壊れちゃって。新しいものを買ったんだよ。」



「へぇ〜あんまり、前のと変わらないね。」



「まぁね笑。でも、いつかはもっと高いのも買って使ってみたいな〜って思ってるんだ。」



「高いのって?」



「こうやって、物を乗せると……4.3kg…これは、ここの目盛りを見ないとなんだけど、高いのだと空中に文字が表示されたりするんだ。」



「空中に?すごいね。」



「でしょ?笑。ま、まだまだ買うのは無理なんだけど……はい、ゴロイモ4.3kgで344円ね。」



「ありがと。」



「今週も何か買ってくかい?」



「服ある?」



「もちろん、あるよ。えっと、勇輝君の背丈だと……この辺かな。」




そう言って、箱田は再び、何も無い空間から、三着の服を取り出した。




「どれが良い?」



「そうだな〜じゃあ、その青色の服でお願い。」



「はーい。140…いや、120円。」



「良いの?」



「うん。これからもご贔屓にってことで笑」



「分かった。」




箱田から受け取った小銭のうちの数枚を、箱田に手渡し、服をもらう。




「他には何か買うかい?……今回は甘いものとかも持ってきてみたけど。」



「う〜ん……僕はいいや。甘いもの好きの村長にでも売ってあげて笑」



「笑、そうだね。」



「ほぉ〜〜甘いものか。どれ、見せてみなさい。」




と、村長の話題を2人が出したところで、白髪白髭のいかにもな老人…この平和居村の村長が、2人の元にやってくる。




「あ、村長、おはよう。」



「おはよう、勇輝。孝路も。」



「おはようございます。今回持ってきたのはですね、帝都で流行ってるらしい、お菓子です。」



「なんと、帝都で流行っているものか。絶対に買うぞい。」



「笑、ありがとうございます。そのお菓子は…これです。」



「はぁ〜これが流行りのお菓子……美味そうじゃ。いくらかの?」



「1つあたり、260円です。」



「260円?!たっか!」



「まぁ、帝都から仕入れたものだからね。どうしても高くなっちゃうんだよ。」



「笑、当たり前じゃな。むしろ、こんなド田舎で帝都のものが買えるんじゃから、それでも安いものじゃ。」



「そ、そうなんだ……っていうか、箱田おじさん、僕が買えないの分かってて、勧めたの?」



「まぁ、勇輝君の後ろから、村長が来てたのが見えてたからね。」



「あ、そうだったんだ。」



「相変わらずなヤツじゃ笑……ほれ520円。2つくれ。」




村長の懐から、箱田の手の上に小銭が飛ぶ。




「…ありがとうございます。」



「村長、2つも食べるの?ほんと、甘いものが好きなんだね。」



「笑、確かに儂は甘いものが好きじゃよ。でも、この2つのうち1つは、勇輝の分じゃ。」



「ほんと?」



「なんじゃ、いらんのか?笑」



「い、いる!」



「笑、早く食べなさい。育恵に見つかったら、なんて言われるか分かったもんじゃないからの。」



「育恵おばさんに?」



「そうじゃ。勇輝も、儂からお菓子をもらったなど、育恵に言うのではないぞ。」



「なんで?笑」



「この〜分かっておるくせに。そんな態度じゃ、お菓子は返してもらおうかの。」



「ごめんごめん笑。育恵おばさんには言わない。」



「それならよろしい。では、まずは儂から……パクッ……モグモグ……ふ〜む……」



「どうです?」



「これは絶品じゃな。来週もまた持ってきなさい。たくさん買うぞい。」



「いや〜来週はちょっとキツいです笑。せめて2ヶ月後でお願いします。」



「しょうがないの〜〜勇輝、どうじゃ?」



「うん!美味い!」



「そりゃあ良かった笑」



「笑、僕も持ってきた甲斐があったよ。勇輝君の笑顔も見れたことだし。」



「そう?」



「うん笑」



「笑……ところで孝路よ。1つ聞きたいことがあるんじゃが。」



「なんですか?」



「最近、森の"魔物"が少なくなったという話が出ておるんじゃが、何か知っとらんか?」



「あぁ〜……もしかしたら、近くに"魔現師まげんし"が来てるからかもしれないです。」



「っ……」



「…ほぉ、魔現師が。」



「はい。話によると、国の依頼でここの近くにある遺跡を調べに来ているらしいんですが、そのついでに森の魔物を討伐しているのかもしれません。」



「なるほどな……ふむ、儂らからしたら、得したという感じじゃな笑」



「ですね笑」



「…じゃあ、僕はもう行くね。」



「あ、うん。育恵さんにもよろしく伝えといて。」



「分かった。またね。」



「笑、また。」



「村長も。」



「うむ。気をつけて帰るんじゃぞ〜」




2人に見送られて、勇輝は広場を出て、来た道を戻る。




いや〜あのお菓子、めちゃくちゃ美味かったな〜


また食べたいな〜



でも、僕が買うには高い……まぁ、箱田おじさんは、次に持ってこれるのは2ヶ月後って言ってたから、それまでにお金を貯めれば買えないことも…


う〜ん……



来月、おじさんが来た時にお金が足りてれば買うか。


うん、そうしよう。




そう考えながら、少し歩いて、勇輝が自分の家の近くまで帰って来ると…




「服は買えたかい?勇輝。」




手の平から出している水を、隣の家の前の花壇に咲く花にあげている、ふくよかな老婆…"富田育恵とみた いくえ"が、勇輝を迎えた。




「うん、買えた。」



「そうかい。それなら、その服を部屋にしまって、畑の手入れをしなさい。」



「はーい。あ、欣治おじさんが、水やりを手伝って欲しいって言ってたけど…」



「それならもう済ませたよ。」



「そうなんだ。じゃ、すぐに戻ってくる。」



「お金はちゃんとしまうんだよ。」



「うん。」




育恵に見守られながら、勇輝は誰もいない家に帰り、荷物を置いて、元気に畑仕事に向かうのだった。



◇◇◇◇◇



翌日




「勇輝、おはよう。」



「あ、おはよう、育恵おばさん。」



「水やり手伝うよ。」



「良いの?ありがとう笑」




朝から畑仕事をしていた勇輝の隣に、育恵が来て、並んで、ゴロイモの葉に水をかけ始める。



そして、暖かい日差しを浴びながら、2人は話す。




「どのぐらいできそうなの?」



「今日は別にどこからも頼まれてないし、勇輝の畑分は大丈夫だよ。」



「やったね笑」



「…水やりだけだからね。」



「分かってるよ笑。にしても、やっぱり便利だよね、育恵おばさんの"天能てんのう"。」



「そうかい?…まぁ、確かに。畑仕事になら、役立つ天能だね。私の『水やり』は。」



「良いな〜〜僕のも、畑仕事に役に立つやつが良かった。」



「そんなこと言うもんじゃないよ。勇輝の天能も、神様から授けられた、ちゃんと誰かの役に立てるものなんだから。」



「そうかな〜」




と、不満そうな表情をする勇輝を、育恵が諭していると、勇輝の家に人がやってくる。




「あ、いた、勇輝!これ開けてくれ!」



「え、どれ?」



「この箱だよ。ったく、うちのガキがよ、勝手にこの鍵をかけた上に、その鍵をどっかに無くしちまったんだ。」




不安顔をした近所に住む家族のお父さんが、鉄製の南京錠がかかった箱を持ってきた。




「それは、アンタが子供を見てなかったせいだよ。」



「で、でもよ〜俺が畑仕事中だったから、しょうがないんだって。」



「仕事を盾にして、子供だけのせいにするんじゃないよ。それは親として最低なことだと思わないかい?」



「……それもそうだな。気をつけるよ。」



「ちゃんと自分達も反省しつつ、子供もちゃんと叱りなさい。」



「わかった。ありがとう、育恵おばさん。」



「いいえ。さ、勇輝。開けておやり。」



「うん。『解錠』」




そう言って、勇輝が箱の南京錠に手をかざすと、南京錠が開いた。




「おぉ!ありがとな!勇輝!助かった!」



「またね〜」




開いた箱の中に入っている綺麗な髪飾りを見て、安心した様子の男は、笑顔で手を振りながら、勇輝の畑から出ていった。




「ほんとバカだね。奥さんへのプレゼントを、子供の手の届くところに置いておくんじゃないよ。」



「あぁ、プレゼントだったのか。」



「さぁ、どうだい?勇輝。自分の天能が人の役に立った気分は。アイツの笑顔を見て、心が暖かくなっただろう?」



「…なったかも…」



「どの天能だって、絶対に誰かの役に立つんだ。だから、自分の天能を信じなさい。自分の天能に自信を持ちなさい。」



「…分かった。」



「笑、じゃ、水やりを続けるよ。」



「うん!」




と、笑顔になった勇輝が、育恵に暖かな眼差しで見守られる中、水やりを再開すると…




「おーい!勇輝〜!」



「ん?欣治おじさん?」



「なんだい、次は欣治かい。」



「あぁ、育恵のばあさんもいたのか。ちょうどいい。」



「ちょうどいい?何かあったのかい?」



「いや、勇輝の力を借りたいっていう人が来て…っ!!」




「あ!君が鍵を開ける系の天能を持ってる子?!」




欣治が話している途中で、その背後から、見たことがない若く美しい女性が、すごく焦った表情で、そう叫んだ。




「えっ?」



「おい、向こうで待っとけって言ったろ。」



「で、でも…」



「アンタはどこの誰だい?ここの村の子じゃないだろう。」




焦った表情のままに、欣治の後ろで、少ししょんぼりとした女性に、育恵が尋ねると、すぐに答えた。





「えっと、帝都から来た、魔現師の"伊従未良いより みら"です!」






これが、勇輝と、勇輝の人生を変える未良との出会いであった。






to be continued

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2024年10月23日 20:00
2024年10月27日 20:00

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