異世界が来た!〜遅咲きの英雄は世界を救う〜

きなこもち

第1話 遅咲きの英雄(1)

 第三次世界大戦、それは地球を破壊した。


 核兵器は当たり前、環境への配慮と言う言葉も誰も聞かない。

 地球温暖化は進行し続け、地球は滅亡するかと思われた。


 だが、地球は滅亡しなかった。

 自己防衛本能とでもいえばいいのか、地球は球体ではなく、立方体のような形になり、宇宙にある様々なエネルギーを急速に取り込んだ。

 その副作用だろうか、モンスターやダンジョンと言う、現実世界ではあり得ないとされてきた、本や漫画の中でしか存在しないと思われてきたものが地球の至る所に出現した。


 人々は口を揃えて言った。


 「異世界が来た!」と。


 ***


 「ふわあぁ〜、よく寝た」


 今日も俺の一日が始まる。

 2畳の部屋にも慣れ、トイレは外に出て100メートル歩かなければないという事実にも慣れ、風呂は1週間に一回と言う生活にも慣れた。


 「早く、出勤しないと」


 俺は今、中古品の販売員をアルバイトとして受け持っている。

 17歳。同学年の子たちは、"英雄学校"にでも通っているだろう。


 みんなには、超能力があるから。

 俺には、超能力がないから。


 俺の月収はいいとかで5万円と言ったところだ。

 他の連中はその100倍は稼ぐ。


 いつからこんなに差がついたのか。

 俺はこの人生諦めている。

 だが、生きていくためには金を稼がなければならない。

 

 だから俺は中古品販売を続ける。

 この仕事しかできるものがなかった。

 全人類が何かしらの超能力に目覚めているこの世界で、超能力がない人間にはこのくらいの仕事しかできることがない。

 

 「俺にも超能力があれば……。」


 なんだそう夢に見たことだろうか、3歳になれば超能力が自然と発現するこの世界で、17歳になる今までその予兆すら見ることができない。

 そんな絶望に打ちひしがれながら、今日も働く。


 中古品を扱うこの店には、テレビや本などの娯楽品が沢山ある。

 布団以外何もない俺の家よりは余程こちらの方がいい場所だ。


 「今日、なんと! 

  陸のダンジョン【山楽の動流】が、Sランク冒険者パーティー【漆黒のライオット】によって踏破されました!」

  

 「すげぇ、陸のダンジョンの中では難しい方のダンジョンなのに……」


 この世界には【陸】【海】【空】のダンジョンが存在する。

 それぞれのダンジョンに特性があり、攻略の仕方も変わってくる。

 今現在、確認されているダンジョンの数は


【陸】が2500

【海】が1200

【空】が150


 なのだが、ほとんどのハンターは【陸】のダンジョンにしか挑戦しない。

 【海】【空】は難易度が高すぎるため、まず入ることを許されないのだ。


 そんな中で、活躍するパーティー、

 【漆黒のライオット】は俺の幼馴染がリーダーを務めているSランクパーティーで、実力人柄等が認められ、人気パーティーの一つになっている。


 「はぁ、昔は俺の方が強かったのになぁ」

 

 幼馴染である神田エマは家が近所で小さい時はよく遊んでいた。

 俺たちはどちらも「最強ハンター」を目指しており、3歳になる時まで毎日遊びで決闘をしていた。


 その時は俺が勝つことが多かったのだが、3歳になると、エマは【聖女】という職業と【魔導剣士】という副職業が与えられ、超能力社会の希望の星として、届かぬ存在になってしまった。


 超能力に目覚めれば、俺も追いつけるかな。

 そんな事を夢見ていた時もあったが、もう諦めている。

 この中古品売場で堕落した生活を過ごすのが俺のルーティーンになっている。


 だが、最近はゴミを売りに出してくる客が多い。

 俺に超能力がなく、歯向かえないことを知っている連中はゴミを売りつけ、自分の収益にしている。


 昨日は何に使うのかわからない黒いボールのようなものを売りつけられた。

 そのボールを眺めながら、ゴミ同士仲良くしようと思った。


 「お前も、俺と同じで蔑まれてきたのか?」


 そんな俺の問答に答えるように、そのボールは光り出した。


 「な、なんだ!」


 目を開けると、何処までも真っ暗な空間に移動させられていた。

 どこだ、ここは。

 俺の体は宙に浮いているような感じがし、足元も真っ暗だ。


 『お前は俺と同じか、いいこと言うじゃねえか!

  確かにお前、超能力に目覚めていないようだな!

  もう安心しろ。俺がいるということは、お前は英雄になると言うことなのだ!』


 何を言っているのか分からない。

 どこから声が聞こえているのかも分からない。

 これは、夢なのか?


 『夢なわけがないだろう!』


 ん!? 今、思考が読まれた?


 『当たり前だろう! 俺とお前は一心同体! これからはパートナーだからな!』


 パートナー?

 俺と、このよくわからない何かが?


 『よく分からないとはなんだ! 俺は神に、値する力を持っているのだぞ!』

 「そんな力があるなら、俺にも力をくれよ!」

 『もう与えているだろう! ステータスでも見てみろ!』


 ステータス? そんなもの俺には存在しない! 

 超能力に目覚めないと、ステータスは表示されないんだよ!


 『まぁ、まぁ、見てみろって』


 疑いは晴れないが、一縷の希望にかけて唱える。


 「す、ステータス」


 すると俺の前に、フォンと言う音を立てて金色に輝く画面のようなものが出てきた。

 間違いない、これは、ステータスボードだ。

 超能力を手にしたものが見ることのできるもの!


 「まさか、俺に超能力をくれたのか!?」


 『いやいや、お前の中に眠っていた超能力を解放しただけだ。100年経たないと、解放されない呪いがかかっていたのでな、それを解いただけだよ、呪いを解くために少しだけ情報改ざんさせてもらったぞ!』


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 ステータス

 

 名前 : 湊夏月みなとかづき


 職業 : 遅咲きの英雄

 副職業 : カードマスター


 レベル : 1

 

 スキル : なし

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 これが、俺のスキル!

 やっと、やっと解放されたんだ!


 「ありがとう、ほんとに、ありがとう」

 『おうよ! 俺がいればお前は英雄になれる!』


 その後泣き崩れてしまい、再び目を開けると、いつもの中古屋に戻っていた。


 「す、ステータス。」


 そう唱えると、俺の前には画面が表示された。

 やっぱり、夢じゃなかったんだ!


 『夢なわけないだろう!』

 「うわぁ! びっくりした」


 さっきとは違い、脳内に直接語り掛けられている気がする。 

 耳から声が入るのではなく、脳の中で暴れ回っている感じだ。


 『この感覚には慣れてもらわないと、これがお前の職業なんだから』 


 「え?」


 職業 : 遅咲きの英雄

    この世界の全知全能、英雄である

    カミアを自分の身に宿す。


 「全知全能? カミア?」


 『俺のことだな!』

 

 俺、とんでもない職業を手にしたんじゃないか?


 とはいえ、俺の職業を解放してくれたんだ。恩は返さなければ。

 

 「これからは師匠と呼ばせて頂きます!」

 『おうおう! いい響きだ!』


 そんなことを言っていると、


 ドッカーーーッーン!!


 と爆発音のようなものが身体全身に響いた。

 

 『迷宮氾濫ダンジョンブレイクだな』


 迷宮氾濫、1年に一回起こるか起きないか、

 ダンジョンの中の魔力が一定のゲージを超えると、中のモンスターや魔力が外に漏れ出してしまうことだ。

 これ一回で相当な犠牲が出る。

 ハンターはこれを防ぐためにダンジョンに潜り続けるのだ。


 「今すぐに、行かないと!」


 俺は立ち上がったのだが、足が動かない。


 カタカタ、カタカタッと膝が震える。

 モンスターなんて、対峙したこともない。

 怖い。


 『全く、腰抜けだな』

 「師匠は黙ってて! 今動いてやる」


 そう強く思っていると、目の前に2枚のカードが出現した。


 「なんだ、これ……。」

 『やっと出たか、お前の副職業、カードマスターの能力だよ!』


 〈①外へ出て人々を助ける〉

 〈②家に帰って寝る〉

 ⦅どちらかを選ばなければ、ペナルティーが発動します⦆


 そう表示されている。

 なんだよ、これ。

 なんだよ、この能力。

 

 変な2択させやがって、こんなの、①しか選べねえよ。


 ⦅①を選んだことにより、恐怖心が薄れます。また、運気が上がります〔吉〕⦆


 す、すごい。

 よく分からないが、足が動くようになった。

 

 俺は走り出し、音のする方へと向かった。


 ⦅このままだと、モンスターに負けてしまいます⦆

 「うるさいな、分かってるよ!」


 てか、この声誰だよ!

 師匠とは別に、お姉さんのような声が頭の中に響いてくる。


 ⦅私は、副職業カードマスターの能力のうちの一つです⦆

 『おう! 久しぶりだな! カエラ!』


 2人は知り合いなのか。

 カミアとカエラ、名前似てて覚えにくい。


 ⦅それよりも、このままですと、負けてしまいますよ。マスター⦆

 「じゃあどうすればいいんだよ!」


 ⦅スキル取得⦆


 〈①魔法使い〉

 〈②剣士〉

 ⦅どちらかを選ばなければペナルティーが発動します⦆


 また出た、この2択。

 だが、さっきとは違う、魔法! 剣!

 キタキタ! 俺の欲しかった能力!


 「①だ!」

 

 ⦅マスターはスキル【魔法使い.レベル1】を取得しました。これにより、次の選択が表示されます⦆


 〈①火魔法〉

 〈②水魔法〉

 〈③風魔法〉

 〈④土魔法〉

 〈⑤光魔法〉

 〈⑥闇魔法〉

 〈⑦無属性魔法〉


 うおお! 属性まで選べるのか!

 魔法を使えるようになっても属性はランダムで選出されると言うのが一般常識だ。


 正直迷う。それぞれにメリット、デメリットがあるからだ。


 『個人的には闇魔法か無属性魔法がおすすめだな!』


 1番考えから除外していたものたちだ。

 どちらも強力だが、魔力の消費が激しすぎるのだ。

 魔力はレベルを上げることによって増加する。

 レベル1の俺が取得しても使えないだろう。


 『おいおい、忘れるんじゃねえ、俺とお前は一心同体だ。お前の体には俺の魔力回路と魔力が備わってるんだよ! 

  この世界で言うSランク? のハンターより、余程質も良く量もあるぞ!』


 ナニソノチート。

 オレニハリカイデキナイヤ。


 「でも、そう言うことなら、⑥闇魔法!」

 

 ⦅⑥闇魔法を獲得しました⦆


 よし!これで戦える!

 俺は、魔物の方へと走った、

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