◇鈴影の追憶◇
◇鈴影の追憶◇
白哉様がその女を連れ帰ってきたとき、俺は動揺する心を隠すことができなかった。
自身も傷を負いボロボロの白哉様に横抱きされ、ぐったりとするその女は、かつて俺たちと共にこの屋敷で過ごした娘とよく似た顔をしていたからだ。
まさか。
そんな思いが頭をよぎる。だが、その予感が正しいということは、いつも飄々としている白哉様らしくない、焦った様子から判断できた。
「悪い、雅!すぐに空いている部屋に布団を敷いてくれ」
「紫苑と天音は、濡れた手ぬぐいと氷をたくさん頼む」
各々に了解した、という返事をして、皆慌ただしくその場から駆けてゆく。まだ信じられない、という気持ちで呆然としていた俺だったが、白哉様に「鈴影、大丈夫かい」と尋ねられ、ようやく正気に戻る。
「白哉様、そいつは……」
俺の質問の意図が分かったのか、白哉様はふと微笑んで「ああ、そうだ」と力強くそう返した。「やっと、会えた」とも──。
じわじわと思い出される、過去の記憶。
ケンカ腰で突っかかってくる勝気な態度。太陽のような笑み。花を愛でる姿。胸が締め付けられるような最期。
あやかしである俺たちと違って、人間という生き物の生涯はとても短い。弱くて、脆くて、すぐに死んでしまう。だから嫌いだった、人間なんて……。
それなのに、再び出会ったお前はまた同じ言葉を俺にかけ、人間も悪くないと思わせる。
『確かに、他の人と馴れ合わなくたって生きていけるわ。……だけど、誰かと関わることで得られるものも、たくさんあるわよ』
いつか彼女は、思い出してくれるだろうか。俺たち、あやかしにとっては瞬きをするくらいの、短い、短い時間だったが、儚くも美しく、輝かしいそのひとときを──。
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