不器用な天狗

「からかわないでくれますか……っ!」

「からかってなんかいないんだがね」


白哉様はそう言って笑いながら、また一口どら焼きを食べ始めた。


「そういえばこのどら焼き、鈴影さんと作ったのよ」

「鈴影と……?」

「ええ。白哉様が言っていた通り、鈴影さんって思っていたよりもいい人ね」


もぐもぐとどら焼きを食べながら、鉄鼠のあやかしたちに囲まれていた鈴影さんの姿を思い出す。私の言葉に白哉様は「そうだろう」と、どこか嬉しそうな様子だった。不器用なあやかし、というのは確かに白哉様の言う通りだったわね。


「でも、妬けるな」

「へ……?」


聞こえてきた言葉に視線を戻すと、じっと私を見つめる白哉様と目が合う。何だろうと首を傾げていると、「鈴影とはいえ、君の口からほかの男の名前が出るのは」と続けた白哉様。


「と、いうことで──」


白哉様はそう言うと、あろうことか私の膝を枕にごろんと寝転がる。


「ちょ、何なの、急に……っ!」


慌てふためく私のこともお構いなしに、白哉様は「いいだろう、膝枕くらい」と微笑んだ。なにが「ということで」なのか。因果関係がまったく分からない。


「ちょ、ちょっと、ここで寝るつもり?!」

「ああ、今日はポカポカと日差しが気持ちいいいし」


のんびりとそんなことを言いながら、白哉様は目を閉じた。確かに今日はいい天気で気持ちがいいけれど、だからって私の膝の上で寝なくても。


麗しい顔がすぐ近くにあって落ち着かない……!


そう思いながらも、ふと見れば少し顔色が悪そうな白哉様に手が止まる。結局「その場から動く」ということを諦めた私は、小さくため息をついて、「少ししたら起こすわよ」と返す。返事は返ってこなかった。その代わり、規則正しい寝息が聞こえてきて、私は再びため息をつくことになる。


顔を上げて目の前の庭を見つめると、橙色のキンセンカが咲いていた。私がここへ来たとき、白哉様はこの花をじっと見つめていたようにも見えたけど、何か意味があるのだろうか。掴みどころのない神様に、私は翻弄ばかりされている気がした。


見上げれば雲一つない空が広がっている。どこまでも穏やかな時間が流れている束の間のひとときが、私には心地よくもあり、怖くもあったのだった。

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