不器用な天狗
◇◇◇
「白哉様、こんにちは」
中庭で鉄鼠ちゃんたちにどら焼きを配り終えた後、私は白哉様の元へと足を運んだ。部屋の中にいると思った白哉様は縁側にごろんと横になり、寛いでいた様子。私に気づくと「あやめ」と嬉しそうな顔を見せ、体を起こした。
「いい匂いがするね」
「どら焼きを作ったの。よかったら一緒に食べない?」
「いいね、いただくよ」
白哉様の返事を聞き、私は隣に腰を下ろす。天気もいいし、目の前の庭には色とりどりの花が咲いていてとても綺麗。せっかくだから、ここで昼下がりのお茶を楽しむのも一興ね。
「はい、お茶どうぞ」
湯呑みにお茶を注いで白哉様の隣に置き、お皿に乗ったどら焼きを手渡す。白哉様は「ありがとう」とそれを受け取り、早速一口食べてくれた。
「うん、美味しい。生地と餡の甘さがちょうどいい」
「よかった。たくさん作ったから白哉様にも食べてもらいたくて」
私も隣に座ってぱくりと一口。口の中に広がる優しい甘さに、ふにゃりと顔が緩む。やっぱり美味しい甘味って人を幸せにするものね。
なんて、私一人でどら焼きを存分に堪能していると、視線を感じて隣を見る。すると、にこにこと微笑む白哉様と目が合った。
「な、なに……っ」
「いやぁ、幸せそうにどら焼きを食べているあやめを見ていると、僕も幸せだなぁと思って」
ひどく優しげな瞳を向けながらそんな恥ずかしいことを、さらりと言ってのける白哉様に私の顔が赤くなる。すると、頬に伸びてくる白哉様の手。
「……照れるあやめも可愛いな」
するりと頬を撫でながら甘い言葉を囁かれ、私の顔はますます赤くなっていることだろう。視線を逸らしてしまいたいのに、吸い込まれるような美しい金色の瞳から目が離せない。
「ふふっ……そんな顔を見せないでくれ。もっと君にいじわるしたくなる」
そう言われたのをきっかけに私は「もうっ!」と、視線を逸らした。そんな顔ってどんな顔よ。まったく。
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