不器用な天狗

「……あやめが困ってるだろうが。数はたくさんあるから、ちゃんと並べ」


その言葉に私を目をぱちくりさせた。周りにいる鉄鼠たちも同様にぱちくり。


「怒ってない鈴影さん、初めて見たでちゅ……」

「怒鳴ってない鈴影さん、初めて見たでちゅ……」


などと口々に呟く鉄鼠たちに、「いつも怒ってるわけじゃねぇぞ!」とすかさず本人からツッコミが入った。当の鉄鼠ちゃんたちは


「怒っていない鈴影さんは、とっても貴重でちゅね!」

「もしかしたら、明日は嵐がくるやもしれないでちゅ!」

「ややっ、もしかしたら大雪という可能性もありまちゅね!」


なんて会話をしているのが丸聞こえだ。


「おい……お前らがご所望とあれば、いつでも拳骨くれてやるぞ」


あまりの言われように鈴影さんがこめかみをピクピクさせながらそう返すと、鉄鼠たちは「ひぃえでちゅ~~~!!」と声をあげて、私の後ろに隠れようとする。


だけど、そんな鈴影さんと鉄鼠たちのやりとりに、私の頬を自然と緩んでいた。何だかわからないけど、ほっこりする……。それから順番にどら焼きを配り終えたあと、


「言っておくけど、この一口サイズのどら焼きは、鈴影さんが作ったんだからね?あんたたち、よ~く味わって食べるのよ」


と話せば、鉄鼠たちからは「えええ~~~~!!!」と驚きの声があがる。それから、ぱくりぱくりと食べ始めた鉄鼠たちは、口々に「美味しいでちゅ!」とご満悦。


「こんな綺麗な形のどら焼きを、鈴影さんが作ったんでちゅか……!」

「生地の焼き具合も最高でちゅ……!」

「すごいでちゅね、鈴影さん……!」


思ったことをそのまま率直に述べ、絶賛する鉄鼠たちに今度は鈴影さんの方がタジタジだ。褒められ慣れていないのか、いつもはあまり表情の変わらない鈴影さんだが、ほんのり耳が赤くなっている。


「また、作ってほしいでちゅ!」

「もっとたくさん食べたいでちゅ!」

「わ、分かったから、そんなに大勢で詰め寄るな!」


ギスギスとしていた彼らの関係も、少しはいい方向へと向かってくれたかも、と私もほっと胸を撫でおろした。鈴影さんのことを不器用だと言った白哉様や梅さん。そんな不器用な彼の見方が変わった。今日はそんな1日になったのだった。

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