不器用な天狗

それから大量のどら焼きを作った私たちは、梅さんに休憩にやってきたあやかしたちに配るよう頼んだあと、中庭へ向かっていた。私の手元には、お盆のお皿の上に乗ったほかより小さめのどら焼きの山。


「……そんな小さいなどら焼き、どうするつもりだ」


不審な目でこちらを見てくる鈴影さんに、私は「まあ、ついてきたら分かるわよ」と、ふふんと笑いかけた。そして、中庭の池が見える縁側に到着した私は、「鉄鼠ちゃんたち~、おやつの時間よ~!」と呼びかけた。突然、私が大声を出すものだから、隣の天狗はギョッとしている。


「わぁ~い!おやつでちゅ~!」

「いい匂いがするでちゅ!」

「どら焼き、どら焼き!」


私の声と、美味しそうな匂いにつられたのか、四方八方からネズミたちが集まってくる。前は3匹しかいなかったけど、どうやらこのお屋敷には結構な数の鉄鼠たちがいるみたい。


「わわ、ちょっと待ってよ!順番に配るから」


チューチューと鳴きながら足元に集まる小さなあやかしたちは餌を求める雛みたいでとってもかわいいのだが、いかんせん数が多くてアワアワする私。すると、隣から「おい、お前ら!」と鈴影さんの低い声。瞬間、鉄鼠たちの動きがぴたりと止まった。どら焼きに夢中で、鈴影さんのことは見えていなかったのかしら。


「す、鈴影さんでちゅ……」


と、若干怯えているような……。だけど、鈴影さんは手をギュッと握りしめたあと、そんな鉄鼠たちのことをじっと見つめ返す。

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