不器用な天狗

「甘いもののことになると素直ね」

「……うるさい」


けれど、「ほかのあやかしたちにも、そうやって素直になればいいのに」と、私がそう提案すれば、途端に鈴影さんの表情に影が落ちた。


「……他の奴らと馴れ合わなくたって生きていけるだろ」


ぶっきらぼうな物言い。そう呟いた横顔は、どこか寂しそうに見えた。なにか過去にあったのだろうか。出会ったばかりの私にはわからないけれど、そんな顔を見ていると、ついおせっかいしたくなってしまう。


「そうね。確かに、他の人と馴れ合わなくたって生きていけるわ。……だけど、誰かと関わることで得られるものも、たくさんあるわよ」


私の言葉に、鈴影さんがこちらを見る。その目は大きく見開かれていた。


「ほら、今だって私と一緒にあなたの好物のどら焼きづくりしてる」


「楽しいでしょ?」と笑って続ければ、鈴影さんは何かを堪えるような顔をした後、ふいと視線を逸らし、作業を再開した。


「……楽しいなんて言ってねぇだろ」

「でも、甘い香りにさっきから口元緩んでるわよ」


そう指摘すれば、バッ!と勢いよくこちらを向き、目を釣り上げながら「緩んでない!」と反論する鈴影さん。やっぱり素直じゃないなぁ、と思いつつも、なんとなく、それが彼らしいとも思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る