不器用な天狗

◇◇◇


必要な材料を揃えた私はお手伝い役を鈴影さんにお願いして、早速、どら焼きづくりに取り掛かった。まずは、生地づくりから。薄力粉や餅粉などいくつかの粉、砂糖をふるいにかけて合わせていく。


「鈴影さんは、その間そこに置いてある水あめに重曹を溶かした水を少しずつ混ぜてちょうだい」

「なんで、俺が──」

「どら焼き、あんこも多めに入れてあげるから」


まだ手伝うことに渋る様子を見せていた鈴影さんだったけど、私がそう言えば、仕方ないと言わんばかりに調理に加わるので思わず吹き出しそうになった。気難しそうに見えて、案外単純な天狗である。


「甘いものが好きなの?」


ふたりで並んで作業をしながら、何気なくそんなことを質問してみる。私の護衛役らしく、彼にはいつも見張られているのだろうけど、私自身は鈴影さんを見かける機会なんてほとんどない。話したことも、これまで数回程度。彼について知らないことはまだたくさんあるから、鈴影さんを知るためにも聞いてみたことだった。


「……なんだ、悪いか」


だけど、相手はそうは思わなかったみたいで、ぎろりとこちらを睨まれる。そんな警戒しなくてもいいのに。


「別に悪いなんて、言ってないでしょう?なんだか意外だったから驚いたけど、私も甘いものが好きだから気持ちはわかるわ。どら焼きはもちろん、大福もわらび餅も、みたらし団子もおいしいものがたくさんあるものね」


私がそう言えば、鈴影さんの体がぴたりと止まった。突然どうしたんだろうと彼をじっと見つめていると、「最近は、おはぎも好きだ」とぼそりと返ってくる。恥ずかしいのか、心なしか耳が赤くなっているような……。

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