不器用な天狗

「いやあ、驚いたよ。まさか起きたら、あやめがいるなんて」


にこやかな笑みを浮かべながら食事をする白哉様に、私はいまだ顔を赤くしたままそっぽ向いていた。だって、朝からあれはいただけない。心臓に悪すぎる。


「……私が部屋に入っても全然起きないんですもの」


小さな声で反論しながら、私も白哉様の対面に座って食事を摂る。あのあと、まだ朝ごはんを食べていない私に、白哉様から一緒に食べようと誘われ、断る理由も特になかったので今に至る。他人の気配に鈍感なのか、それとも私が入ってきたのも気づかないくらい熟睡していたのか。少し顔色が悪いから、もしかしたら体調がよくないのかもしれないけれど……。と、私が心配していると──。


「それで?寝ている僕の顔をじっと見つめて何をしようとしてたのかな」


「ん?」と、にこにこと眩しい笑顔を向けられ、私は勢いよく「布団をかけ直そうとしただけです!」と返す。寝顔に見惚れていたけれど、それを正直に話すのはなんだか癪だった。そんな素っ気ない態度の私を見て、白哉様はふふと笑みをこぼす。


「まあ、いいよ。今日はあやめが朝から僕を起こしに来てくれたから、なんだか調子がいいし。こうして一緒に朝ごはんを一緒に食べられるしね」


そう言って、優しげな眼差しを向けてくる白哉様に言葉が詰まる私。なんだか白哉様のこの調子には、いつも調子が狂ってしまう。私は何か別の話題を……と考えたところで、今日の朝の出来事を思い出した。


「ねえ、白哉様。あの、天狗の鈴影さんって……ほかのあやかしから嫌われてるの?」

「鈴影が、かい?」

「ええ。嫌われているというか、怖がられているというか……」


私の言葉に、白哉様はお茶を啜りながら「そうだねぇ」と呟いた。


「……鈴影は不器用なあやかしだから、誤解を受けることは多い子だよ」

「不器用……」


そう言われて、そういえば鈴影さんが梅さんの荷物運びを手伝っていたことを思い出した。梅さんも彼のことを「不器用」だと言っていたっけ。


「根はいい子だから、機会があれば、あやめも話しかけてみてごらん」


「きっと喜ぶはずだから」と白哉様は続けたけれど、あの眉間にシワが寄った天狗が私に話しかけて喜ぶなんて姿が全く想像できなくて、私は「そうですかね」と首を傾げたのだった。

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