不器用な天狗

「び、びっくりした……」


ほっと胸を撫で下ろした私だったが、ふと見ると布団の裾がめくれているのが目に入る。見目麗しい神様なのに、寝相がよくないとはなんだか意外。私はゆっくりと白哉様に近づいて、布団をかけてあげることにした。


「わぁ……まつげ長い」


近くに寄って寝顔を見つめる。改めて見ても、よく整った顔立ちだ。けれど、いつも見かける涼しげな様子はなりを潜めていて、なんだか少し幼くも見えるな。


……っと、いけない、いけない。


寝ているからと言って、勝手に人の顔をじろじろと見つめるなんて。そう思って立ち上がり、部屋を出ようとした瞬間──。


「わっ……!」


ぐいと手が引かれたかと思うと、バランスを崩して畳に手をついた。目の前には、目をスッと細めてこちらを見る白哉様。そのあまりの近さに、私は「ぎゃあ!」とかわいくない声をあげて後ろに飛び退いた。


「あや、め……?」


一方の白哉様は、寝起きの掠れた声で私の名を呼び体を起こす。その姿を見た瞬間、私は違う意味で絶句した。


普段は結っている長い髪がさらりと流れ、やや乱れている浴衣の襟部分からはちらりと胸元が見え隠れしている。寝起き特有の気だるげな雰囲気は、それだけで色香を纏っていて……。耐性のない私は両手でばっと顔を覆い「着物、ちゃんと直してください!」と、朝から叫ぶ羽目になったのだった。

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