不器用な天狗

◇◇◇


「えっと、この廊下をまっすぐいって突き当たりを右の部屋……っと」


あのあと、梅さんの朝食づくりをお手伝いした私は現在、屋敷の主人である白哉様の部屋へと向かっていた。ほかのあやかしたちは、食堂で各々のタイミングで食事を食べにくるそうだけど、白哉様はいつも自室で食べているとのことだった。


『この御膳はあんたが持っていってやりな!返事がなかったら勝手に入って置いておけばいいから』


梅さんにそうせっつかれて、私はこうして白哉様の朝餉を届けにいっているというわけだ。


「ここね」


目的地に着いた私は、少し緊張した面持ちでごほんと咳払いをした。なんて声をかけよう、と思って緊張気味でいたのだけれど、「白哉様、あやめです」と声をかけても返事はなし。もしかして外出中かしら……。


「じゃあ、御膳だけ置いておこうかな」


そう思って御前を横に置いて、スッと障子を開ける。すると、広い部屋の端にこんもりと丸くなった布団が見えた。


「もしかして、まだ寝てらっしゃる……?」


私が障子を開けても起きないところを見るに、どうやらかなり熟睡しているようだ。どうしたものかと考えあぐねていた私だが、ひとまず机に御膳を置いておこうと思って部屋の中に入ることにした。起こさないように、抜き足差し足……とまるで忍者になったような気分。無事に、机の上に御膳を置くと、ふうと小さく息が漏れた。


「んん……」


と、後ろから聞こえてきた声にドキリと音を立てる胸。ゆっくりと後ろを振り向けば、寝返りをうった白哉様の顔が布団から見えていた。それでも、まだ眠いっているようでまぶたは閉じられたまま。

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