不器用な天狗

「す、鈴影さん、ど、どうしてここに……!」


苦笑いを浮かべながらアセアセする琥珀君。まずい、という気持ちが顔に出ていて分かりやすすぎる。どうしたものかと思っていると、鈴影さんの後ろから梅さんがひょいと顔を出した。


「アタシが畑で収穫した野菜を運んでいたら、手伝ってくれたのさ」

「野菜……?」


と、改めて鈴影さんを見てみると、確かに彼の手元には大量の野菜が入った籠。かなり重そうで、梅さんが運ぶには大変そうである。それを鈴影さんが手伝っていたと……。


「お前ら、仕事サボってのほほんとしてやがるなら、今日の朝メシは抜きだぞ」

「す、すぐに仕事に戻ります!」


琥珀君はそう言うと、サッと敬礼して消えてしまった。一方、ネズミたちはそろりそろりと調理場から出て行こうとしている。だけど、「あと、お前ら!」と鈴影さんがすごみのある声で呼びかけると、「は、はいでちゅ!」と、ビクビク体を震わせながらぴたりと止まった。


「……この目つきの悪さはもともとだ。悪かったなぁ?」


ネズミたちに近づいて睨みをきかせる鈴影さんに、ネズミたちはぎゃあ!と飛び上がり、「すみませんでちた〜!」と、風のような速さで調理場から退散してしまった。鈴影さんは、そんなネズミたちの後ろ姿を見つめながら、「ふんっ!」と鼻を鳴らす。


「お前も、あいつらの仕事の邪魔をするな」


こちらに向き直った鈴影さんは、私にもそう言うと調理場の台に籠をどさっと置いて出ていってしまった。突然のことに何も返せず、「なんなの、あれ」と呆然とする私。


「……あやつは、ええやつなんだがなあ。いかんせん不器用というか、なんというか」


梅さんはそう呟いて鈴影さんの背中を見送り、籠の中に入ったトマトを取り出した。私は、出ていった彼の後ろ姿を思い出し、手のひらをギュッと握りしめた。

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