不器用な天狗

不器用な天狗

「よし、支度完了っと」


四神がひとり、西方の守護を司どる白虎の神様である白哉様のお屋敷に来てから、はや半月が経過した。訳も分からぬまま、ここへ来ることになった私だけれど、しっかりと休息を取ったおかげで体もすっかり元気になった。


「……病は気からって言うし、いつまでもうじうじしていられないわ」


用意されていた着物に着替えた私は、両頬をパンと叩いて自分自身に気合いをいれる。慣れない環境に弱気になっていた私だけれど、屋敷の主人である白哉様が「今はここを居場所だと思えばいい」と言ってくれた。だから、今はその優しさに甘えることにしたのだ。


命を救ってもらった私には、やることがまだある。


まず第一に、仙の安否の確認。そのためには、白哉様やこの屋敷のあやかしたちの協力が必要だし、私自身も何かしらの情報を手に入れるために行動しなければならない。


以前も、そんな前向きな心持ちであやかしの手伝いを申し出たのだけれど、自分の思った以上に弱っていた体では、気持ちだけが先走って結局また体調を崩してしまうことになったから。万全の体調にまで回復した今から、また自分のやれることを探していこうと思う。


それもこれも、すべては白哉様のおかげ。


不安に押しつぶされそうな私の心を見抜いていた彼が、優しく私を受け入れてくれたから、気持ちを切り替えることもできたのかもしれない。


「さて、ひとまず朝食の準備から手伝おうかしら。確か、梅さんは早朝から仕込みをしているって言ってたし」


なにはともあれ、まずは料理の手伝いだ。そう思って、私は先日赴いた調理場へと向かうことにした。

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