◇高羽椿の高笑い◇

◇高羽椿の高笑い◇

『水無月あやめは、野犬に喰い殺されて死にました』


そう言って証拠の品と共に体の一部と、着ていた着物の端切れを持ち帰ってきた男に、私は愉悦した。血濡れた端切れを見て、ああ彼女はどんな最期だったのだろうと妄想し、笑みは一層深まっていく。


「……やっと邪魔者が消えたわ」


私はそれをテーブルに置くと革張りのソファから立ち上がり、窓辺に立つ。窓から見えるのは水無月邸。主人がいなくなった屋敷は灯りが灯ることもなく、寂しげにそこに佇んでいる。


「ふふ……っ」


こらえきれずに笑みが溢れる。


いつも輪の中心にいて周りの視線を一心に集めていたあの女。だけど、だと捕まるや否やみんな手のひら返しで批判し、紛糾していた姿に笑いが止まらなかった。


「ホント、馬鹿な民衆だわ」


真実なんて見ようともせず、上辺だけの情報に惑わされて。それが仕組まれた罠だったことも知らずに、罪なき人間を「人殺し」と罵り、裁きの森へと追放した……。ああ、ホント笑えるわ。


私はふとテーブルに視線を戻し、一枚の封筒を手に取った。上質な紙を使った封筒からは薔薇の香りがする。それに愛しさを感じて、私ははぁと息を吐きながら、その封筒に頬ずりをした。


『九条家の次期当主がお前に会いたいと言ってきたぞ』


お父様はそう言って、この手紙を私に渡してくれた。


私の体を心配していること、そして一度ゆっくり話がしたいと書き連ねられており、最後には「九条蒼志」という美しい字が並んでいる。九条家当主とお父様との間では、すでに結婚についての話も出ているようで今回の会食は、その顔合わせみたいなものだ。


「ああ、何もかもが私の思い通りだわ……。アハハ……っ!」


止まらない高笑い。


さて、次はいつもあやめお姉様の側にいた美しい男……仙様をどうしてやろうかしらと、今度はそのことを思案する。


「……あの女が持っていたものは、全部私のものにしてやるわ」


私は改めてそう決意し、料理人が作ったケーキを一口食べた。口の中に広がる甘い味が、私の喜びをより一層大きくしてくれるようだった。

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