居場所
「僕は、君がもといた場所に帰る場所はないと言ったけれど……だからといって、居場所がないわけじゃない。今は、ここが君の居場所だ」
白哉様の言葉が、じんわりと胸に広がっていく。私は器をぎゅっと握りしめながら、静かに彼の言葉に耳を傾けた。
「いまは、まだ体も本調子ではないから体を休めることに専念すればいい。今日みたいに、屋敷の手伝いをしてくれることは大いに大歓迎だけど、無理をしすぎないように気をつけるんだよ」
どこまでもや優しいその声色は、気を張っていた私のトゲトゲを一つずつ抜いてくれるようで、たまらなかった。同時に思う。私はそんなことをされるような人間ではないというのに。
「……白哉様は、どうして私にここまでしてくれるんですか」
ぽつりと呟いた言葉に、白哉様は「それは──」と言葉を詰まらせた。
「ただ、一目惚れしたからって……。私は、そんな理由だけで優しくしてもらうほど価値のある人間じゃありません」
ましてや白哉様はこの帝都を守る四神がひとり、高貴なる神様だというのに。
私の言葉に、白哉さまは淡く微笑んだ。
「そうだね。君からすれば、『そんな理由』かもしれない……。だが、今はただ、君は僕の優しさを享受しておけばいいんだよ。あやかしたちは、まだ人間であるあやめに慣れない者もいるだろうけど、ここには君を貶めるような者はいない。それに僕が結界を張っているこの屋敷内は、どこよりも安全な場所だ」
白哉様はそう言ったあと、おどけるように「何せ僕はこの世界で、とっても偉い神様だからね」とバチンとウィンクを決めてみせた。なんだか白哉様と話していると気が抜ける。それも、この人が持つ、優しげな空気感のせいなのだろうか。
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