居場所

「自分で食べられます」


にこにこと期待の眼差してで私を見つめる彼を一刀両断して、私はれんげと器を横取りした。「つれないなぁ」と言いながらも、どこか楽しそうな様子の白哉様に調子が狂う。


「いただきます」


おいしそうな匂いにつられて、私はれんげにおかゆをよそって、ふうふうと冷ましてから、ぱくりと一口。食べた瞬間に、口の中に広がるやさしい味に心まで温かくなる。


「おいしい……」


私の感想に、白哉様は「それはよかった」と微笑んだ。ほんのりお味噌の味がするおかゆは、玉子との相性もばっちり。その優しい味に、なぜだか喉がつっかえてきて苦しくなった。とても、とても優しい味だったから。


「……あやめ」


追い討ちをかけるように白哉様の優しげな声が胸に響いて、私の瞳からはたまらず涙があふれてくる。どうしてだろう、泣くつもりなんてなかったのに。


「ごめんなさ……っ。私……っ」


張り詰めていた糸が、こんな形でぷつんと切れるなんて思ってもみなかった。


「……ここへ来るまでに、いろいろなことがあっただろう。辛く、苦しい思いもきっとたくさんしたはずだ」


そう言われて、高羽邸で事件が起きてから今日までの日々が頭の中をめぐる。


椿にめられて無実の罪を着せられたこと。

仙と離れ離れになったこと、多くの人々から罵詈雑言を浴びせられたこと。

「裁きの森」に連れてこられて男たちや邪鬼に襲われそうになったこと……。


本当なら九条家に嫁ぎ、私は今ごろ仙と一緒に嫁入りの準備をしているところだっただろうに。あの日を境に、私はすべてを失った。


「……あやめ。顔をあげてごらん」


白哉様の言葉にふと顔をあげる。目が合った白哉様は、どこか寂しそうな表情を浮かべながら、私をじっと見つめていた。

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