居場所

それからしばらく私は眠っていたようだった。重い瞼をゆっくり開けると、外はすでに夕焼け色になっていた。ぐっすりと眠ったおかげで、ずいぶん体も楽になった気がする。


「よく寝た……」


一人そう呟くと、途端にぬいと横から現れた顔にギョッとした。


「それは何よりだ、あや──」

「ぎゃあ!!!」


誰もいないと思っていた部屋に誰かがいたから、びっくりして後ずさる。よく見ると、そこにいたのは、この屋敷の主人である白哉様だった。


「び、びっくりするじゃないですか!何なんですか、急に……!」

「いや、あやめがしんどそうにしていたと梅から聞いたものだから、様子を見に来ただけなんだが……」


私の驚きように目をぱちぱちとさせている白哉様。静かな部屋に誰かいたらびっくりするに決まってるでしょう。驚きすぎて可愛げのない悲鳴をあげてしまったじゃない……。


「体は大丈夫かい?」


そんな私をよそに、白哉様は心配そうに顔を覗き込んでくる。美しい顔がずいと近づいてきて、固まってしまう私。


「だ、大丈夫です……っ」


お願いだから、その顔を近づけないで。この神様は自分の顔面がどれほど破壊力があるのか気づいていないようだ。ただでさえ、私はお父様や仙以外の異性に対する免疫がないのに。


「本当に……?でも、顔が赤いよ」


白哉様はそう言うと、私の額にスッと手を伸ばしてきた。


冷たい手に、「ひゃっ!」と声が上がってしまい、あたふたする私。白哉様はそんな私をおもしろそうに眺めていたので、これはわざとやっているなということが、まだ付き合いの短い私にも分かってしまった。

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