居場所
「手伝えること……?」
天狗男は「人間のお前が?」と続け、私のことを鼻で笑ってきた。見下したような視線と、その言葉にムッとしつつも私は、手のひらをギュッと握りしめて目の前の男を見つめ返した。
「ええ、そうよ。そりゃ私はただの人間だけど、このまま、ここで何もせず、お世話になりっぱなしではいられないもの」
白哉様や雅さんは、どちらかというと私に対して好意的に接してくれていたけれど、確かによそ者の私が屋敷の中にいることをよく思わないあやかしだっているだろう。だからこそ、ここに置いてもらうからには私も私のできることをしなければと……思っていた矢先に、彼のようなあやかしに出会うとは。先ほどから鋭い視線がビシビシと体中に刺さる。
「……俺は、お前みたいな力の弱い人間が嫌いだ」
「嫌いって……」
初対面にも関わらず、随分はっきりとものを言うあかやしである。けれど、そう言い放った横顔は、どこか憂いを帯びているようにも見えた。
「まあ、あなたに何と言われようと、私は雅さんを探しに行くわ」
威勢よくそう返せば、天狗男はふんと鼻を鳴らして私に背を向けた。背中に生えた漆黒の羽は艶やかで、近くで見ると綺麗だななんて場違いな感想を抱く私。彼もやっぱりあやかしなんだ、としみじみ思っていると、「おい、人間」と呼びかけられる。
「……雅は所用で外出中だ。何か仕事をしたいのなら、屋敷の統括を任されている梅さんとこに行け」
天狗男はそう言うと、私に背を向けたまま廊下を歩いていく。これは案内してくれるということだろうかと、私はひとまず彼の後ろをついて行き、その屋敷統括である「梅さん」とやらに会いに行くことにした。
だけどこのとき、私はまだ何も知らなかった。自分の些細な申し出が、あんな事態を招くとは──。
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