白虎の神様

「あ、なたは……」


思いがけず現れた男に、私の動きがぴたりと止まる。「美しい」という言葉が、まさにぴったりの男の人に出会ったのはこれが初めて。透き通るような清らかな空気を放った、どこか儚げな印象がある人だった。


「こんにちは、あやめ。僕は、今しがた話題になっていた四神がひとり、この西殿の主を務める白哉という白虎の神様だ」


なんでもないことのように、ニコニコと笑顔を浮かべながら、さらりとそんなことを言う目の前の神様。想像していた神様と違い、私は目をぱちぱちとさせてしまった。


そりゃ神がかり的に綺麗な顔をした人だけど、見たところ狛犬兄弟や雅さんみたいに頭に獣耳は生えていない。「私は神様です」と言われても「はい、そうですか」なんてとても信じられなかった。


見た目は至って普通の人間だ。本当なのかと怪しんだ私は布団を引っ張ったまま後ずさり、警戒の眼差しで目の前の神様とやらを見た。


「そ、その神様が、私を花嫁にって聞いたんですけど、どういうことですか」


白哉様は腕を組み、笑顔を絶やさぬまま「ああ、そのことか」と部屋へと勝手に入ってくる。そして、おもむろに私が寝ていた布団の側に腰を下ろして、私のことをじっと見つめてくる。また、ひと拳分後ろに下がる私。


「そんな逃げずとも取って喰ったりしないのに」


どこか不満そうな神様だが、私にとってはまだまだ分からないことばかりなのだ。彼の目的が分からない以上、危機感を持ってしまうのは当然のことではないか。


「……質問の答えをまだ聞いていません」


胡乱な目を向けると、目の前の神様はふと笑みを深めて私に近づいてくる。あまりに突然の出来事に対応できず、私は思わず息を止めてしまった。だって、整った顔がすぐ目の前にある。

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