嘘の罪
傍聴席をちらりと見れば、「分かってるわね」とでも言いたげな椿の顔。何より、このまま仙が私を擁護する発言を繰り返せば、彼の立場だって危うくなる。
「……彼は私の両親に拾われてから、ずっと私の側にいましたが、私の本性には最後まで気づかない、愚かな人間でした」
淡々とした声でそう話す私に、部屋中が急に静かになる。
私は、この場で演じなければならない。善良な同居人を騙し、醜い嫉妬心に駆られ、人を殺めた悪い女という役を。
「私は、あなたのことを、ずっと邪魔だと思っていたわ。……両親が、あなたを拾ってきたあの日から、私の両親を横取りしたあなたを、ずっと憎く思っていたのよ」
「お嬢、さま……」
憎しみのこもった瞳で、仙を見る。本心ではなかった。心にもない言葉だった。
「嘘だ……。お嬢様が、そんなこと……」
呆然とした表情で、放心した仙の体がぐらりと崩れ、両サイドにいた警官が慌てて仙の体をぐいと支えた。私はふいと視線を逸らして、まっすぐ前を向く。「もうあなたのことは知らない」と言うように──。
そして、判決の鐘が鳴る。
「被告人に審判を下す。……水無月あやめは、裁きの森へ追放だ」
その言葉に、聴衆の声が一際大きくなる。「お嬢様!」と叫ぶ仙の方は、もう見なかった。まっすぐ前を向いたまま、表情ひとつ変えずに判決を受け入れる。こうして私への罰が確定し、無実の私は裁きの森へ追放されることが決まったのだった。
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