嘘の罪
◇◇◇
それから私は、わずか数日も経たないうちに裁きの場へと連れ出された。大きな広間の奥には、裁きを下す審判者が数名。そして、罪人を取り囲むようにひしめき合う聴衆たちがいた。
「どうやったらあんな酷いことができるんだ!」
「人でなし!」
「できたお嬢さんだと思ってたんだけど、まさか裏の顔があったとは」
そんな言葉があちこちから聞こえてきた。椿が話していたように、没落令嬢のスキャンダラスな事件に飛びつく人間は多いようで、侮蔑、嘲り、怒りのこもった視線が方々から向けれらる。
けれど、私はそんな言葉などまるで聞こえていないかのように、姿勢を正し、ただまっすぐ前だけを見つめて表情を引き締めた。
「静粛に!」
審判者の一人が騒がしい聴衆を大人しくさせ、いよいよ審判のときがやってきた。審判者の隣に並べられた長椅子には、椿の両親や九条家の人間も並んでいる。もちろん、その中には蒼志様もいた。
「これから裁判を行う」
その言葉から始まった裁きの時間。
事件の経緯に、物的証拠、周囲の人間の証言。そのどれもが私の聞いたことのない話ばかりだったけれど、私はそのすべてを否定することなく、はっきりとした口調で「間違いありません」と返していく。
表情ひとつ変えずにそう告げる私を、誰かが「悪魔だ」と罵った。
本当の「悪魔」は、どっちだ。
そんな言葉が頭をよぎったけれど、本心なんてここで曝け出すわけにはいかない。手のひらを握りしめて、どんな言葉にもグッと耐える。そんなとき──。
「お嬢様っ!」
入口の方から、聞き慣れた仙の声が聞こえてきた。ふと顔を上げれば、警官に両腕を捕まれ取り押さえられている仙の姿。直接顔を合わすのは、事件の日以来のことだった。
「お嬢様が、そんなことをするはずがありませんっ!あなたが、殺人など……っ」
そう必死に訴えかける仙に、涙が零れそうになる。胸が苦しく、今すぐにでも駆け寄ってしまいたかった。やっぱり、仙は私のことを信じてくれていた。そんなことするわけないと思ってくれていた。それがどれだけ、私の心を強くしてくれたか分からない。
けれど、私はここで、それを認めるわけにはいかなかった。
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