嘘の罪

『また、こんなに散らかして。後片付けが大変ですよ』

『旦那様に拾っていただいたあの日から、私の役目はお嬢様をお守りすることです。……ずっとお側に仕えますよ』

『私のことはいいですから、戸締りをして部屋で大人しくしていてください』


幼い頃から、ずっと側にいて私を見守ってくれていた仙。


ときに優しく、ときに厳しくありながらも、どんなときも側にいてくれた私の大切な人。


きっと仙は、私が誰かを手にかけるなんてこと、するはずがないと信じてくれる。他人の言葉に惑わされるほど、私たちがこれまで積み重ねてきた信頼関係は脆くはない。血の繋がりはないとはいえ、本当の家族のように暮らしてきた間柄だ。


もしかしたら無実を訴えて、私を助けだそうとするかとしれない。


そうなったら仙はどうなる……?


この帝都には死罪という罰はなく、すべては神に審判を委ねるという名目で、大罪人は東西南北に点在する鬱蒼とした森林が広がる「裁きの森」へ追放されるのが慣わしだ。それは、この帝都を守護しているという四神の神への生贄なのだともいわれている。


これまで「裁きの森」へ追放され、帰ってきたものはおらず。官の人間たちが罪人を森へ放置したあとには必ず、罪人のひどく痛ましい叫声きょうせいが響き渡ると聞いたことがある。


「言っておくけど、今の時点ではお姉様がいくら無実を訴えたところで無駄ですからね。第一発見者の一人である医師は、お父様の友人に連れられてお茶をしに来ただけの人だけれど、その医師がお姉様が『手に包丁を握りしめていた』と証言してくれているもの」

「その医者も、おじさまが買収してるんでしょう⁈」


私がそう問い詰めると、椿は否定も肯定もせず、ただニヤリと気味の悪い笑みを浮かべるだけ。ああ、やっぱり私はめられていた。


無気力になり、私はだらりと鉄棒を掴む手を離した。どうすればいい、と考えてみるけれど、この状況で私ができることがあるとすれば、一つしかないような気がした。


「……私は、何をすればいいの」

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