嘘の罪
「さっきも言ったけど、私や、私の味方をする人間たちの証言次第で、話なんでいくらでも作れるわ。『現場にいなかったとはいえ、あの男も計画に加担してました』だとか、ね。まあ、この計画のために、お父様が警察の人間も買収してるから、お姉様が無実を訴えたところで意味のないものだけど」
「高羽のおじさまが、そんなこと……」
「お父様は私に甘いから。欲しいものは、なんでも買ってくれるって言ったでしょう?」
目の前が真っ暗になる。昨日、何度も無実を訴えたけれど、どの官も相手にしてくれなかったのは、そういうことだったのか。
「もし仙様にも同じく容疑がかけられたら、彼も無事では済まないことは賢いお姉様なら、お分かりいただけるんじゃないかしら」
黙ってしまった私をよそに、椿はなおも話を続ける。
「大罪人は西にある『裁きの森』へ追放されるのをご存知でしょう?あの森には、人を襲う野犬や猛獣が住んでいて、罪人たちは肉を食いちぎられて犯した罪を後悔しながら死んでいく……。お姉様には、ただ普通に消えてもらうだけじゃつまらないから、私が
愉快そうに笑う椿に、私は手のひらをギュッと握りしめた。
きっと、これは随分と前から計画されていたことで、用意周到に練られた罠だったのだろう。愚かな私は、高羽家の人間を、椿を信じて、まんまとその罠にはまってしまった。
「……目的は何」
俯いたまま私がそう尋ねると、椿によってぐいと顔を上げさせられる。
「私は、お姉様の立場に成り代わりたいの。私の望みは蒼志様と結婚よ。九条家は格式を重んじる家柄だから、水無月家が無理なら自ずとその番はうちへ回ってくる。けれど、蒼志様がお姉様に未練を持っていたら私はずっと幸せになれないでしょう?だから考えたの。……だったら、蒼志様がお姉様に失望するように仕向けたらいいんじゃないかって」
うっとりとそう語る彼女が、悪魔のように思えた。馬鹿馬鹿しい話だ。そんな愚かな理想のために、こんなことをしでかしたのかと罵ってやりたくなる。けれど……。
『お嬢様』
仙のことを思うと胸が痛んだ。このまま、私が疑いを晴らすことができなかったら彼はどうなる。私とともに言われのない罪を着せられ、裁かれることになったとしたら──。
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