嘘の罪
「お姉様、知っていますか?民衆は、物事の本質など見ようともしないものです。あの水無月家のご令嬢が、隣家の娘と揉めて殺人事件を起こした……。そういうスキャンダラスな話題は、事実か否に関わらず、すぐにあちこちに広まるもの。そうなれば、水無月家の信頼は失墜。例え、この後お姉様の無実が証明されたとしても『殺人事件を起こした家』というレッテルは、なかなか消えないものですよ」
彼女の企みに唖然とする私。
「そんなことをして……私の無実が証明されたら、あなただってただじゃ済まないでしょう……」
なのに、なぜ。そう思っての質問だったけれど、椿はそろりと私に牢に近づくと、鉄棒の間から手を伸ばして私の頬をするりと撫でた。
「仮にお姉様の無実が晴らされれば今度は私が批判の的になるでしょうけれど、私には、あなたに嘘の罪を認めさせるための切り札がある」
「どういうこと……」
私の問いに、椿はにっこりと花のような笑みを浮かべて私を見つめた。それはそれは綺麗な笑みで──。
「お姉様は、仙様のことが何よりも大切でしょう?」
その言葉に、どくんと音を立てる胸。嫌な予感がした。とても、とても嫌な予感が。椿は懐から何かを取り出すと、カチッとボタンを押した。
『う……っ、は、なせ……っ』
聞き覚えのある声が響いて、私の体が硬直する。苦しそうな声と、殴られるような音。声の主は、紛れもなく仙の声だった。
『ほら、体を起こせよ、兄ちゃん。まだまだ、こんなもん序の口だぞ』
別の男の声が聞こえた後、男が高らかに笑う声が聞こえる。仙が苦しそうにうめく声も……。
「このまま男たちに仙様が殴り殺されてもいいのかしら」
「……めて」
『ぐは……っ!』
「私も仙様はお気に入りなので、このような真似をするのは心苦しいんですのよ」
『ほら、へばってないで顔を上げろよ、兄ちゃん』
「でも、こうするのが一番最善の方法かしらと思って」
『はぁ……っ!はな、せ……っ』
「やめてっ!」
耐えきれずに私がそう叫ぶと、椿はにこりと笑ってこちらを見た。
「……仙は、何も関係ないでしょ」
「こうでもしなきゃ、お姉様はご自分の立場を理解なさらないと思って」
「今すぐ仙を解放して!」
「それは、お姉様の返答次第よ」
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