嘘の罪

その後、事態が動いたのは1日経ってからだった。冷たく、暗い部屋で過ごしていた私のもとに、なんと椿が来たのだ。


どういうこと……。


またも混乱する私のもとに、見張り役と思わしき男に連れられ椿がやってきた。鉄紺色に大きなホオズキの花が描かれた着物に身を包んだ椿は、私を見るなり「あやめお姉様!」と目を潤ませて近づいてきた。


「ごめんなさい、私……っ。今まであなたがそんなに嫉妬心を募らせていたとは知らずに……っ」

「なに言って──」

「全部私が悪かったんです……っ。私が……っ」


牢屋の前で泣き崩れる椿を一瞥したあと、男は「面会は10分までだぞ」と椿の背中にそう投げかけると、部屋を出ていった。ばたんと大きな音を立てて閉まった扉。


ここには、私と椿の二人しかいない。仮にも、被害者と加害者とされる関係者を二人きりにするなんて、どういうつもりなの。


「……何しに来たの」


警戒しながら私がそう尋ねると、すっと泣き真似を引っ込めた椿。


「そんな怖い顔しないでくださいよ、あやめお姉様。これでも私、怪我人なんですよ。……自分で自分の体に包丁を突き刺すのは結構大変だったんですから」


その言葉に唖然とする。


「やっぱり、その怪我は──」

「ええ、私の自作自演です」


にたりといやらしく笑う顔に、私は無性に腹が立った。自分で自分を傷つけておいて被害者ヅラとは。


「何考えてるの!私に無実の罪を着せて、それでどうするつもり⁈」


私が鉄格子越しに詰め寄ると、口元に手を当てた椿が優雅に笑う。


「だから、お話ししたじゃないですか。……私は、あなたの全てが欲しいって」

「全てって……」


訳がわからない。私がいるから自分は一番になれないのだと、彼女はそういったけれど、それがどうしてこんな事件を引き起こすことに繋がるというのか。そんな私の思考を読み取ったのか、椿は首を傾げてにこりと笑った。


「お姉様には今、殺人の嫌疑がかけられている。二人に手をかけたとなれば、大罪人として裁かれるのは必然でしょう」

「大罪人って……私は、何もしていないのよ」


私の言葉に、椿はふふとさらに笑みを深くした。

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