嘘の罪
◇◇◇
それから私が連れてこられたのは、警察の牢だった。狭く、無機質な牢の中に押し込めら、ガシャンと大きな音を立てて閉まる扉。今だにこの状況を飲み込むことができなくて、私はただ呆然とするしかなかった。
「しばらく、ここで大人しくしていろ」
威圧感のある低い男の声。去って行こうとする男の背中に牢の鉄棒を掴んで、「待ってください!」と呼びかけた。
「私、本当に何もしていないんです……っ!」
無実を訴えたい一心でそう言うと、男が振り返って壁をだんと叩く。静かな部屋に響いた大きな音に、びくりと震える体。
「行商一人を殺し、それを止めようとした娘にもケガを負わせておいて、よくそんなことが言えるな!」
「え……」
男の言葉に、呆然とする私。
待って。行商って、サンディさんのこと……?
「あのとき、離れの客間にいたのはお前と、娘、行商だけだと屋敷の者たちの証言もある。とにかく今は現場検証中だ。……やっていないというのなら、その検証結果を待つことだな」
男はそういうと、またくるりと私に背を向けて部屋を出ていった。がくりと膝から崩れた私は、牢の鉄棒に額をつけて俯いた。
「……何が、どうなっているの」
もうわけがわからない。椿とお茶を飲んでいたら急に頭がくらくらして、そこで記憶は途絶えている。記憶が途切れる前に見たのは、椿の憎しみがこもった瞳。そして、『私、あなたのすべてを手に入れたいの』と、にたりといやらしく弧を描く唇。
「……これから、私どうなるの」
ぽつりと呟いた言葉に、当然ながら答えが返ってくることはなかった。頭に浮かぶのは、仙の顔。こんなことになって、仙はきっと心配しているはず。
「仙に会いたい……」
私の口から力なく出た言葉は、自分の思っていた以上に弱々しく聞こえた。ただただ不安と後悔が押し寄せてきて、私はどうにかなってしまいそうだった。
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