嘘の罪

◇◇◇


長い夢を見ていたような、そんな感覚。離れたところから、ばたばたと慌ただしい音が聞こえてくる。


「ああ、なんてことなの……!」

「誰か、医者を!医者を呼んできてくれ!」


遠くの方で、物音と叫ぶような悲鳴が聞こえてきて、私はぼんやりとする頭を起こし目を開いた。自分が、ここで何をしていたのか思い出せない。その瞬間、目に入ったのは血を流して倒れる椿の姿。ハッとした私は慌てて彼女に駆け寄った。


「椿っ!しっかりして、椿っ!」


花模様が描かれた撫子色の着物には、赤い血が付着していた。よく見れば、脇腹から出血がある。椿は眉間にシワを寄せながら「ううっ」と小さく唸っていた。


どうして、こんなことに──。


そう思っていると、高羽家の使用人が医者を連れて部屋へと戻ってきた。私はすぐさま助けを乞おうと思い、「お医者様!」と叫び立ち上がった。


「ひぃ!」

「近寄るな、人殺し!」


けれど、向けられたのは恐怖と厭忌えんきの眼差し。どういうこと、と思い、視線を地面に向けると、私の足元には血で染まった包丁が落ちていた。


「え……」


状況が飲み込めず、頭が混乱する。この部屋には私と椿しかおらず、私の足元には凶器と思われる包丁。そして、私の手のひらは、椿のものと思わしき血で赤く染まっていた。使用人が「人殺し!」と、再び私に向かってそう言った。

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