嘘の罪
嘘の罪
『わ、こんなところにねこ……!』
あれは私がまだ6つか、7つほどのことだっただろうか。お母様の病気平癒の祈願か何かで、お父様に連れられて森の奥にある神様にお参りに行ったときのこと。私は、途中でお父様とはぐれてしまい、一人森の中を彷徨い歩いていたら、木の幹の下に、ぐたりとして丸まっている白猫を見つけた。
よく見ると、体には黒の縞模様も。かわいらしいその姿に、私はお父様とはぐれてしまって不安だったことも忘れて、その白猫にゆっくりと近づいた。
『ねこさん、元気ないのかな……』
人間が近づいても逃げもしないところを見るに、その猫はケガをしたのか、病気なのか、随分と弱っているようだった。幼い私は、そんな猫を放っておくこともできず、「よいしょ」と抱き上げて一緒に連れて行くことにした。
抱き上げたときの、ほんのり温かいその存在は、一人だった私にはとても心強かった。
『ねこさんも、お祈りしたら神様が治してくれるかも』
そんな声かけをしながら、しばらく歩いていると森の中にひっそり佇む朱色の鳥居を見つけた。すると、鳥居に近づくにつれて腕の中の猫がぴくぴくと動き出して、しまいには体を起こす。
『元気になったの?』
私の声に反応した猫がくるりとこちらを向き、澄んだ金色の瞳と目が合う。吸い込まれそうな、宝石のような綺麗な目。それから猫はきょろきょろと辺りを見渡していた。
『元気になってよかったね』
先ほどのぐったりとしていた様子とは違って、私も一安心。すると、後ろの方から『あやめ〜!』とお父様の声が聞こえてきた。
『とうさま〜!』
私が笑顔になって手を振り返せば、手にざらりとした感触。手元を見れば、猫が私の手をぺろりと舐めているところだった。それから、猫はもう一度私の顔をじっと見つめたあと、ひょいと腕から飛び降り、鳥居の向こうへと消えていった。
元気になったから、もう家に帰るのだろうか。
それともお父様が来たから逃げたのだろうか。
理由はわからなかったけれど、背を向けていってしまう姿を私は少し寂しく思っていた。
あの猫は、今どうしているだろう。元気でいるのだろうかと、ふとそんなことが頭をよぎった。
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