仕組まれた罠
「あら、もう効いてきたのね」
畳の上にうずくまっていた私が顔を上げると、うすらと笑みを浮かべた椿が私のことを見下ろしていた。
「な、に……これ……」
「さっきの行商に持ってきてもらった特殊な薬です。頭がぼんやりとするでしょう?私がこのお茶に入れたのよ」
椿の言う通り、体を思うように動かすことができず、私はただ椿を見上げることしかできなかった。一体、何が起こっているのかと重い頭を無理やり働かそうとするけれど、あまりに突然のことすぎて私も状況をうまく飲み込めない。
いいえ、もしかすると理解することをどこかで拒否したかったのかもしれない。妹のように可愛がってきた椿が、そんなことを言うなんて、と──。
「……ねえ、あやめお姉様」
椿はおもむろに私の名を呼ぶと、うずくまる私の顔を覗き込むようにしゃがみこんだ。
「ごめんなさい。……私、あなたのすべてを手に入れたいの」
そう言って、にたりといやらしく弧を描く唇。
「なに、を……するつもり……」
「あやめお姉様には、消えてもらうわ。……お姉様がいるから、私は一番になれない。いなくなれば、私が一番になれるから」
それから椿が着物の袂から取り出したのは包丁だった。
まさか私、殺されるの……⁈
全身が身の危険を訴え、体を少し起こして後ずさろうとした。けれど、椿に髪の毛を掴まれ、無理やり目を合わせさせられる。向けられた憎悪のこもった瞳に底知れぬ恐怖を感じた。
「こ、んな……ことして、あの行商が……話せば……あなたの、悪事はいずれ、バレ、るわ、よ……」
せめてもの強がりでそう訴えかけてみたけれど、椿はにたりと不気味な笑顔を浮かべたまま。
「だったら悪事がバレないようにするまでです」
「どう、いう……こと……」
その答えを待っていたけれど、椿は私に近づくと顎に指を当てて、くいと顔を上げさせた。
「……目覚めたら全てわかりますわ」
椿はそういうと立ち上がって、私に包丁を向けた。
「窮地に陥った物語のヒロインを助けるのは、ヒーローの役目だと決まっているでしょう?」
そして、「今から、私はそのヒロインになるんです」と、にやりと嫌な笑み。なんだか悪い予感がして、なんとか止めなくてはと思ったけれど、私の体はついに動かなくなり、そこで記憶がぷつりと途絶えた。
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