仕組まれた罠
「つ、椿……。どうしたの……」
様子のおかしい彼女に、急に心臓がどくどくと速くなる。けれど、椿は私の頬に手を添えて、今度はにこりと微笑んだ。見慣れた笑顔のはずなのに、どこか不気味な笑みだった。
「あやめお姉様は、いつも私の憧れだったわ……。美しくて、優しくて、賢くて。常にたくさんの人に囲まれて、みんなの輪の中心にいる。内気な私は、最初は、そんなお姉様を遠くから眺めることしかできなったけれど、あなたはそんな冴えない私みたいな娘にも優しくしてくれた……」
うっとりとした表情で、そう語る椿。私は、そんな彼女から目が離せず、ただ手のひらを握りしめることしかできなかった。
「隣家に越してきてからというもの、まるで本当の姉妹のように過ごすことができるようになったときは夢心地だったのよ。憧れの人に『お姉様』と呼んでもいいと言ってもらった日は、どれだけ嬉しかったことか。……でも」
椿はそこで言葉を区切ると口を歪ませ、私の両肩をグッと掴んでくる。
「側にいればいるほど、自分とお姉様の違いを見せつけられるようで次第に腹立たしくなっていったわ!一緒に街を歩いていても、みんなお姉様のことばかり!私が恋焦がれていた九条様まで、あやめお姉様が手にするなんて!!」
花のような笑みはすっかり消え去り、椿は今まで見たことのないような憎しみのこもった顔で私を見ていた。掴まれた肩がぎりぎりと痛み、私は「椿、離して」と言ってみたけれど、次の瞬間ふと体の力が抜けてしまった。急に頭が痛み出して、くらくらする。なんなの、これ……。
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