第5話

 暑さもピークを迎え、夏休みも中盤に差し掛かかる今日この頃。わたしは用事があり、学校に来ています。この学校は課題が早く終わったら、夏休み中に提出しても大丈夫なのです。


 わたしは、ほぼ毎日家から出ずに周りと差をつけるために、コツコツと課題に取り組んでいたので結構早めに終わっている。


 勘違いしないでほしい。けして友達が少ないから、ずっと家にいる訳ではありません。遊びたいと多少思っているけど、都合が合わないだけです。そうだと信じています。


 南さんと陽葵さんは、とてつもなく友達が多いので、わたしに構ってる暇はありません。彼女らが例外なだけで、わたしのように家にいるのが普通のはず。


 でも、友達が2人しかいないって、ちょっと寂しい。わたしのように引きこもり願望が強い友達が欲しいな。そんなことを考えながら先生に課題を提出する。


「あっそうだ、小鳥遊このあと暇か?」


 帰り際に先生に引き止められる。


「暇と言えば暇です」


「そうか、じゃあこのプリントを白石小春しらいしこはるの家まで届けてくれるか?」


「ええ……」


 友達とのイベントは望んだけど、先生からのおつかいイベントは望んではいない。まあ、断れないから引き受けるんだけどね。


 ◇◇◇

 

 小春さんの家は学校から歩いて15分ほどの距離だった。暑くてダルい体を引きずり、途中何度か迷いながらも無事に彼女の家に到着した。


 そういえば小春って名前、聞いたことないな。もしかしてずっと学校に来てない子かな。なんで学校に来てないんだろう?病気?家庭の事情?


 それにしても、小春って名前可愛いな。明るさを感じられる名前って、可愛くて羨ましい。脳内で小柄でかわいい女の子を勝手にイメージする。


 この出会いがきっかけで仲良くなれたりして!うっきうきでインターホンを鳴らし、美少女が出てくるのを待つ。少し時間はかかったが、ゆっくりと扉が開いた。


「こんにちは、プリントを届けに来ました!!」


 元気よく挨拶すると、174cmくらいのモデル体型の女性が出てきた。


 わたしは一瞬で委縮してしまい、天敵を前に震え何もできないネズミのようになってしまう。


 身長たっか!?金メッシュにピアス開けてるし。しかも軟骨のほうに開けてる。これなんだっけ?カフスって言うんだっけ?


 美人だけどヤンキーに見えて怖い。小春ちゃんのお姉さんなのかな?


「もしかしてお姉さんですか?妹さんの小春ちゃんっていますか?」


「小春って私だけど。あと、ちゃん呼び気持ち悪いから止めてくれる?」


 なにこのギャップ!?彼女の威圧感に圧倒され、わたしは口ごもってしまい、どうやって接すればいいのか分からない。


 どうしよう、睨まれただけで気絶しそう。


「あの、その……すみませ……」


 暑さもあってか熱と緊張のダブルパンチで、パタリと倒れてしまう。


「はぁ!なんで急に倒れるの?大丈夫かよ。めんどくさいけど、危ないし取り合えず部屋に入れるか……ん?よく見たらこいつ可愛い顔してんな」


 ◇◇◇


 あれ?体が異様にスースーする。特に下半身辺りが。そういえばわたし何してたんだっけ?


 ダルさを覚えながらゆっくり起き、違和感のある体の状態を確認する。


「なにこのダボダボなシャツ?」


 更に下に目線を向けると、今まさにわたしのズボンと下着を脱がしている、小春さんの姿が見えた。まだ寝ぼけていて、状況を把握できずにいると小春さんと目が合った。


「大丈夫か、もう元気そうか?」


 少しずつ事のヤバさを実感していく。


「な、何してるんですか?」


「見りゃ分かるだろ。お前もスッキリしたいだろ」


 ズボンどころか下着も脱がせ、スッキリさせる。この言葉の方程式から導かれし答えは……


「もしかして、えっちなことしようとしてますね!?まさかそのために、部屋に連れ込んだのですね!!」


「いや、お前がいきなり玄関前で倒れたからだろ。それに汗びっしょりだし、そのまま外に放置できないだろ」


「え、わたし倒れたんですか?」


「ド派手にな。一応タオルで軽く汗拭いといたから。汗を吸い込んだ服のままだと、気持ち悪いと思って変えといた」


「あ、ありがとうございます」


 とんだ勘違いをしてしまった。凄い良い人でした。あまりにも恥ずかしすぎる。さっきのわたしの言葉を忘れてくれないかな。


「あの用事も済んだし、このまま居座っても迷惑だと思うので帰りますね」


 逃げよう。この黒歴史は真っ先に忘れないと。そそくさと帰ろうとするわたしの肩を、彼女は強く掴んだ。


「なあ、さっきのえっちなことってなに?」


 いやー!!そこを言及しないで。ここ最近、美少女とイチャイチャしすぎて脳内ピンクなんです。


「きっと何か聞き間違いですよ」


「もしかして、そういうのを期待してた?」


 彼女はわたしの腰に手を回し、体をグッと密着させた。


「ねえ、どうなの?」


 に、逃げられない。さよならわたしの青春。しばらく沈黙が続く。怖くて声が出ないよ。


「冗談だよ」


 そう言うと、可愛らしい笑顔を見せた。なんだ、そういう冗談も言えるんだ。焦った~


 どっと疲労感が体に広がり、ヘロヘロになる。


「そうだ、シャワー浴びてきなよ。タオルで拭いたけど、まだ少し汗で気持ち悪いでしょ」


「大丈夫ですよ。これ以上迷惑かけられませんし」


「浴びていくよね……」


 声のトーンが下がり圧を感じる。


「はい、浴びていきます」


 反射的に言ってしまった。まあ、ただシャワー浴びるだけだし大丈夫でしょ。


 ――


「ここに着替え置いとくから」


「分かりました」


 洗面所から小春さんが出ていくの待ってから、浴室に入る。


 よし、パパっと体を流して帰ろう!!そう思ってシャワーを流すと、ふとシャンプーのボトルが目に入った。


「このシャンプー結構高いやつだ。いいなあ、この匂い好きかも」


「私も、そのシャンプーの匂い好きだよ」


「へーそうなんですね……なんで小春さんもいるんですか!?しかも裸じゃないですか!!」


「シャワー浴びるんだから裸で当たり前でしょ?」

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