共感系男子だからって何でも共感すると思うなよ! 駄目ヒロインどもめ!

真夜ルル

ヒロインはボーイズラブの夢をみない

 時計塔の針を目を細めながらため息をついて俺はカフェオレを飲み込む。時刻はおよそ十時一三分を経過した。

 待ち合わせ時間から一三分過ぎた。

 それなのにその人は全然来ない。

 それから数分後、十時半を過ぎた頃、その人は来た。

 カエルの人形を両手で口元に当て、高い声で、「遅れてごめんね」

 彼女の名前は広瀬楓。同じ高校に通う二年の同級生で同じクラスの女子。

 クラス随一の美貌を持つクール系の人気者だ。

 本来なら俺みたいな背景的な男子が会話することすらも難しいだろう相手。

 大抵こういう人は昔からの親友ぐらいとしか会話しないんだろうし、仮に他の人と話すとしても一人でいるところをノリのいい人たちに絡まれるってぐらいな気がする。

 それでその人たちを軽く無視してしまう深窓の令嬢的な意味で人気な人。

 だから俺も転校してから数日でこの人とはこれから先の人生であいさつ程度しかすることはないんだろう、いやそれすらもないだろうな、と思っていた。

 

 嘘でも「そうだね」って共感してしまえば友達なんていくらでも出来る。


 名前は葛木一馬。

 高校二年の男子。

 誰に対してもどんなことに対しても決まって共感することが癖になったいわゆる共感系男子ってやつだ。

 自分の意見がないわけじゃない。ただ余計な争いごとを避けたいだけ。

 大きな意見という風に流される草船みたいな男さ。

 意見のない人はダメだって? 

 そうかな?

 でもほら、転校生の俺が休日に女子と二人きりで出かけているんだから。

 こんな人と一緒に休日を過ごせるのだから間違いではない、はず。


「エーデちゃんはね、一生懸命準備していたんだよ、でもね気が付いたら遅れてたんだって、ごめんねって」


 広瀬は一切口元を動かさずに腹話術を披露した。

 代わりに人形が喋っているかのようにへこへこと指で動かされている。

 ただその人形は今にも嘔吐しそうな顔いろの悪いカエルだ。

 ——言っちゃ悪いけどなんかキモイよ、そのカエル。まぁわざわざ言わないんだけども。

 人形は広瀬の手さげカバンから紐で繋がっており、わざわざカバンを引っ張ってまで同じ目線にもってきている。

 それを見て俺はこう言う。


「それなら仕方がないか。ちゃんと怒っておいてくださいね。”可愛い”カエルさん」


「うん! わかったよぉ」


「——いやいや、それで済むわけないから!」


「あははは」


 広瀬は微妙なカエル人形をへこへこさせて笑っている。

 これがクールで深窓の令嬢だと噂されている人気者の広瀬楓さんだと知ったら多分びっくりするはず。

 ギャップ萌えってやつ。

 あの広瀬さんが人形好きで会話しちゃうタイプだってことを知ったらしばらくは広瀬さんの話題になるんじゃないか。

 え、広瀬さんって人形と会話するの? 可愛いかもって感じで。


「それじゃあお互い目当てのお宝ゲットして語り合おうね」


 そうだ。

 そろそろ着いてしまう。

 覚悟を決めなくちゃならない。

 これから向かう先にあるのは未知の世界。

 ——今更俺は思う。

 適当に共感なんかしなきゃよかった、と。

 その場しのぎの適当な共感をしまくって、自己主張から逃げまくった結果つけが回って来たんだ。


 これから興味の欠片もないボーイズラブの本を買いに行く。

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