第2話 舞台裏での機ぐるみ 1

ロボット博での舞台イベントを終えた2人は控え室に戻ってきていた。

MCを勤めた山岡 美樹(やまおかみき)がアンドロイド役である川崎 真希(かわさきまき)を機ぐるみから解放すべく、真希の頭を挟むようにして取り付けられているアンドロイドの頭を外すため、電動ドライバーを手にした。


その時、ロボット博を担当している百貨店従業員 池脇 陽子(いけわきようこ)が控え室に飛び込んできた。

「お疲れ様です、あのー、突然で申し訳ないのですが、お願いがあるんです」

陽子はかなり焦っているようで息を切らせていた。


「なんですか?」

美樹が返すと陽子が説明を始めた。

「この後にあるガンダムのイベントなんですが、中に入る予定の坂野 直樹(さかのなおき)くんがインフルエンザで来られなくなったんです」

「それで、直樹くんの代わりにガンダムの中に入って欲しいんです!」

「立っていて簡単なポーズを取ってくれるだけでいいんです」

陽子は矢継ぎ早に話す。


それを聞いた美樹は「私も機ぐるみを着てみたかったんです!」と笑顔で答える。


しかし、陽子は複雑な表情を浮かべている。

「ごめんなさい美樹さん、ガンダムの機ぐるみはある程度身長がいるので、あなたでは… 」


そして、まだアンドロイドの機ぐるみを着ている真希に向かって言う。

「真希さん、やってもらえないかなぁ?」


真希は少し下を向いたまま反応がない。

真希は明らかに嫌がっている様子。


真希の反応を見た美樹が言う。

「取り敢えず、アンドロイドのマスク外すね」

そう言うと電動ドライバーで手際良くアンドロイドのマスクのネジを外していく。


アンドロイドの中の真希はゴムの全身スーツに覆われ、顔のところだけが露出するようになっている。

露出した真希の顔は機ぐるみに閉じ込められていたので、顔が真っ赤になっている。


真希の表情からはガンダムをやりたくないのは明白であった。

しかし、陽子にとっては真希以外にお願いできる人はいなかったので必死に頼み込む。


真希は先ほどの舞台イベントで観客からの色々なポーズの要望が飛び交い疲労している事を陽子に伝えた。


陽子は真希に絶対に一つのポーズしか取らない事を約束し説得した。

結果、真希は渋々、陽子の頼みを受ける事になった。


その事を少し面白くなさげに聞いていた美樹だったが、真希の着替えのため、電動ドライバーを使ってアンドロイドの機ぐるみの解体を始めた時だった。


陽子からストップがかかる。

キョトンとする真希と美樹。

なぜ、アンドロイドの機ぐるみを脱がせてはいけないのか陽子が説明を始める。

陽子はスマホを取り出して2人に見せる。


そこには、ロボット博の初日にガンダムに入る予定だった直樹、それに真希と美樹の3人の写真。


先週、試着と打ち合わせに訪れた際に撮影したもの。

その時はまだガンダムの機ぐるみが届いておらず、真希だけがアンドロイドの機ぐるみを着て撮った写真だった。


陽子が申し訳なさそうに話し始める。

「実は真希さんにはアンドロイドの機ぐるみを着たまま、ガンダムに入ってもらいたいの」


理由はこうだった。

写真に写る細身の直樹とアンドロイドの機ぐるみを着た真希の身長や体型が似通っているので、アンドロイドの機ぐるみを着た上からでないとガンダムの機ぐるみは着れないというのだ。


一度、受けてしまった真希は今更断ることもできず、ガンダムの機ぐるみを着ることになった。


陽子は急いで控え室を飛び出し、ガンダムの機ぐるみを取りに行ってしまった。

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